「私人逮捕」を悪にしてしまった? YouTuberの何が問題だったのか…豊田真由子「違法な"正義"動画は見ないように」

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

私人逮捕には厳しい要件がある

“私人逮捕系”と言われますが、彼らが行っているのは、法律で認められた適切な「私人逮捕」とはいえない場合も多いと思われます。

「逮捕」は、人の身体を拘束するという重大な人権・自由の制限であり、原則として、裁判所の令状をもって、警察・検察等によって行われなければならず、一般人による逮捕は、例外的な場合、すなわち「現行犯として犯罪事実が明白な場合」に、「必要かつ相当な限度内の実力行使」によって行うことが認められたものです。(憲法33条、刑事訴訟法213条)

現行犯とは、「現に罪を行い、又は、現に罪を行い終わった者」であり、さらに、犯人として追跡・呼び立てられている者や、財物や明らかに犯罪に使った凶器を所持している者等が、「罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるとき」には、「準現行犯」として、現行犯とみなされます(刑事訴訟法212条)。

そして、「私人逮捕」として行えるのは、あくまでも「現行犯の身体を一時的に拘束すること」であり、捜査や差押等の権限の無い一般人には、その前後の、例えば、犯罪を誘発させる“おとり捜査”のようなことや、つかまえた後に、スマホ等を無理やり取り上げるといったこともできません。そして、直ちに被疑者を警察官等に引き渡すことが必要です。

こうした要件を満たしていない場合に、“私人逮捕”をすると、逮捕・監禁罪(刑法220条)等に当たる可能性もあります。

また、「私人逮捕」の際に、「その際の状況からみて、社会通念上、必要かつ相当と認められる限度内の実力の行使」(最高裁判例昭和50年4月3日)とは認められない状況で、ケガ等をさせた場合には、傷害罪や逮捕等致死傷罪等や、また、民事上の損害賠償を求められる場合もあり得ます。「現行犯の犯罪としての軽重、犯人からどのような抵抗を受けたか、犯人に対して行使した有形力の程度、犯人が負った怪我の程度」等の状況を総合的に判断して、適法であったかどうかが判断されることになります。

今回、「私人逮捕」についての認識が社会に広まることで、純粋な正義感から、自分もやってみようと考える方がいらっしゃるかもしれません。

上記のような点に留意いただくとともに、現行犯からの抵抗や反撃にあって、ケガをしたり、命を落としたりする危険性もあり、日頃の鍛錬や的確な状況判断が必要な、リスクのある行為であることは、ご認識いただく必要があると思います。

視聴者が反応しないことが大事

“私人逮捕系”“世直し系”YouTuberには、上記で述べてきたような様々な問題があり、その行為自体が違法である場合も少なくありません。結果として、捜査機関の手間を増やしたり、犯罪を誘発したりもしています。

承認欲求の充足や再生回数による広告収入という収益を目的としている場合も見受けられます。問題が生じた場合に、YouTube等のプラットフォーマーによる広告やアカウントの停止といった措置は取られてきてはいるものの、(致し方ないことですが)、必ずしも、すべてにおいて、迅速確実な対処がなされているとは言い難い状況です。

こうした中、なによりも「需要」が「供給」を拡大させる、こうした動画を見る人がいると、ますますそれを提供しようとする者が増える、という面があります。したがって、視聴者の方々としては、こうした動画は見ない・無視する、という態度が、非常に大切になってくるのではないかと思います。

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「犯罪の無い、平和で治安の良い社会」は、誰しもが望むところです。良好な治安の実現には、警察等の取締りや、国・自治体の対策や社会環境の整備といったことだけではなく、私たち国民一人ひとりの防犯意識、地域での協力、他者への関心といったことも非常に大切になってきます。

家族や地域のつながりが希薄化していくと言われ、特殊詐欺や白昼強盗、薬物問題等、巧妙化・深刻化する様々な犯罪の増加が懸念される中、“私人逮捕系”“世直し系”のような「私的制裁」という誤った形ではなく、安全な社会の実現への関心や実効的な取組みが、社会に広まっていくことが求められます。

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