「ライドシェア」賛否めぐり噛み合わぬ議論 合理的な判断できないデータばかり 豊田真由子「本質はシンプル…規制緩和は、国民の生命安全を最優先に」

豊田 真由子 豊田 真由子

(2)『ライドシェアは、タクシーより、交通事故や性犯罪が多い』は本当か??

本年3月22日の衆議院国土交通委員会において、「ライドシェアの交通事故と犯罪が、タクシーと比べて、どの程度多いのか」という質問に対し、日本のタクシーと米国の主要ライドシェア企業であるUberとの比較(2020年)データとして、下記の政府答弁が示されました。

・輸送回数:日本のタクシー約5.6億回、米国Uber約6.5億回
・交通事故死者数:日本のタクシー16人、米国Uber 42人、
・性的暴行件数:日本のタクシー19件、米国Uber 998件(うち、不同意性交が141件)

(なお、2020年はコロナ渦で、タクシー利用が大幅に減少した年なので、前年の2019年で見ると、米国Uberは、輸送回数約14億回のうち、交通事故死者数59名、性犯罪が2826件で、そのうち不同意性交が247件となっています。「Uber US Safety Report 2019-2020」)

この数字を一見すると、「ライドシェアはやっぱり危険!」といった印象を受けるかもしれませんが、本件は「データを比較する際には、その他の条件は同じにしなければならない」という大前提が間違っています。

すなわち、日本と米国では、そもそもの治安(性犯罪の発生率)が大きく異なっており(※),そうであるならば、タクシーであれ、ライドシェアであれ、日本よりも米国での犯罪発生件数の方が多いというデータになるのは当たり前で、これをもって、『タクシーよりもライドシェアの方が危険』と結論付けることはできません。

(※)人口10万人当たりの性暴力の発生件数は、日本5.0件、米国43.5件、フランス84.8件、ドイツ48.8件、韓国45.9件(「性暴力」の定義:日本は「強制性交等と強制わいせつ」、米国は「レイプ」、他は「レイプ及び性暴力」)(2019年)。(「こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議(第一回)」資料)

「タクシーとライドシェアのどちらが危険か」を論じるのであれば、「同じ治安状況(同一国内)におけるタクシーとライドシェアの事故や犯罪の発生率」を比べなければ、データとしては意味がないと思います。(なお、各種原文資料に当たったのですが、全米でのタクシーの犯罪発生件数についてのデータは、見つけられませんでした)

一方で、以下のような点についても留意が必要と考えます。

「ライドシェアのドライバーは、客から評価される仕組みであるから、運転技術やマナーが悪いと淘汰され、安全性は担保される」という意見がありますが、運転技術や素行に問題のあるドライバーについて、必ずしも十分に評価に反映されないこともあり、またあくまでも、「事後」の評価ですから、十分に評価される前に乗車して事故や事故に遭ってしまった客は、たまったものではありません。その意味において、飲食物を運ぶドライバー(Uber Eats等)の評価制度とは、リスクの内容・次元が違うのではないかと思います。

そして、やはり女性は「(会社や団体に管理されていない)見知らぬ男性の車に、ふたりきりで乗る」ことに対する抵抗感や恐怖心というのは、男性よりもずっと大きいのだと思います。(もちろん、男性も性被害に遭うリスクがありますし、女性にも「全く怖いと思いません」という方もいらっしゃるとは思うのですが、一般的に「女性の夜道の一人歩きは危険」といった論と同様に考えます。) 

国会でも、ライドシェア解禁を主張されるのは今のところ男性ばかりとお見受けしますが、この点については、世の女性の気持ちも汲み、想像した上での丁寧な検討を望みたいと思います。

(3)『日本では、タクシーより自家用車の方が、安全』は、本当か??

交通事故発生件数(走行距離1億キロ当たり ※2021年)について、「自家用車42.7件、タクシー149.9件」というデータから、『タクシーより自家用車の方が安全』→「『ライドシェア(自家用車で客を乗せて走る)は事故が多くて危ない』というのは間違い」という説明がなされることがありますが、私は、このデータからこの結論を導き出すことはできないと思います。

なぜなら、自家用車とタクシーでは、運行に当たっての状況・難しさが大きく違うからです。自家用車は、「ドライバーが、自分(と家族や友人等)で、自分たちの行きたい場所に、あらかじめ準備をして向かう」ものですが、タクシーは「見知らぬ人を乗せて、予想していない・知らない、指定された場所に向かう」ものであり、走行中に乗客からの急な指示等もあったり、自家用車よりも運行が難しいことは、容易に想像ができます。

そして、タクシーの空車時と実車時では、事故発生件数が大きく異なり、走行距離1億キロ当たり、空車時221.0件 、実車時76.7件です(2021年)。空車時は、路上で手を挙げている人を探しながら(“脇見運転”をしながら)運転せざるを得ないといったことから、事故が多くなっていると考えられます。

ライドシェアは「流し」ではなく、アプリで指定された場所で、客をピックアップするものですから、比較をするならば、少なくとも、タクシーの空車時ではなく、実車時のデータを使わないといけないと思います。

こうして考えてくると、「難易度の高い免許(第二種免許)を取得して、運転をしているタクシーの方が、自家用車より事故の発生件数が、有意に多い」というデータからは、むしろ、「見知らぬ人を乗せて、指定された場所に向かうタクシーは、やはり、自家用車の運転よりも難しい」ことが推測され、そうすると、逆に「やはり、有償旅客運送には、高度な運転技術が必要であり、第一種免許で自家用車しか運転したことのないドライバーが行うライドシェアは、リスクが高まる」と言える可能性すら出てくるので、この点は、もっと精緻な分析をしていただきたいと思います。

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