【現行のタクシー事業の規制との関係】
タクシー事業は、「業として人を運ぶ」という業務の特性にかんがみ、安全安心の確保の観点から厳しい規制が設けられています。歴史的には、過去のタクシーの無謀運転、過剰運賃請求、交通事故、劣悪な労働環境の問題等も踏まえ、戦前戦後の幾度もの変遷を経て、整備されてきたものです。近年は、時代の変化に応じた緩和等もなされてきています。
具体的には、以下のような規制があります。
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・第二種免許(技能試験等の難度を高くしており、普通第二種免許の合格率は54.1%、普通第一種免許は74.5%と差がある ※2022年)
・車検・定期点検の頻度が多い(タクシーは、車検は1年に1回、定期点検は3カ月ごと。一般車は、車検は2年に1回、定期点検は1年ごと)
・ドライバーの体調管理、運行管理、アルコール検知(個人タクシーも含め、健康診断や運転に関する適性診断を受けて支障がないことが必要で、アルコール検知器によるチェックも義務付けられている)
・運賃規制:国土交通大臣が設定した上下限の幅の範囲内での、認可・届出方式。※2023年10月1日からは、都市部以外の地域(全国で営業区域の約8割、車両数の約1割が対象)において、地域の関係者間の協議による運賃設定が可能となる「協議運賃制度」も創設
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「全国ハイヤー・タクシー連合会」の調査によると、全国のタクシー運転手の数は、23.2万人(2023年3月末時点)で、新型コロナ禍による旅客需要の減少等で、2019年3月末と比較すると、約2割(6万人)減少しています。平均年齢も60.7歳と、全産業の43.4歳と比べて高く(厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」)、高齢化が進んでいます。
ライドシェアを導入した場合、競争激化で、タクシー運転手の労働環境が悪化する可能性を懸念する声もあります。タクシーは、法人も個人も、上記のような様々な安全管理のためにコストと手間をかけており、規制が異なる中での“競争”は、やはり公正なものとはいえないと思います。
一方で、人手不足に悩むどの産業でも、その解決は容易ではなく、観光地や混雑時・雨天時などに、既存資源である自家用車を使って、パートタイムや副業として柔軟に対応できるライドシェアを活用することで、社会の困りごと・ニーズに応えられる可能性も大いにあります。兵庫県養父市等では、国家戦略特区を活用した交通空白地で、非営利団体が運営する自家用車の有償利用が例外的に容認され(地域の関係業界との事前協議が必要)、効果を発揮しています。
こうした諸々を踏まえれば、ライドシェアの導入については、(導入するとしても)現時点では、運転技術や健康管理、車両整備や事故時の補償等について、一定の規制を検討した上で、地域や時間を限定するといったことが、制度論としては、妥当ということになるのではないかと思います。
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今回は、加熱するライドシェアを巡る議論の「ここがおかしい」を検証することで、まっさらな視点からの議論のスタートを目指してみたいと思いました。
ドライバー不足の解消、観光地や過疎地での必要性といったニーズに向き合い、安全性の確保のほかに、ライドシェア・タクシー双方のドライバーの労働問題、既存業態の規制緩和、地域の交通体系全体への影響等も考え、スピード感を持ちながらも、賛成反対双方の意見を丁寧に聴き、諸外国の経緯などもよく分析した上で、結論を出していただきたいと思います。
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【参考資料】
▽事業用自動車の交通事故統計(令和3年版)国土交通省自動車局(2023年3月)
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001611001.pdf
▽Uber US Safety Report 2019-2020
https://uber.app.box.com/s/vkx4zgwy6sxx2t2618520xt35rix022h?uclick_id=85a1ae44-fa33-4749-8e71-0ec6b533fbf5
▽各国における性暴力の発生件数の推移に関する資料/こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議第1回会議配布資料(2023年6月27日)
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/aceeb993-95c7-4465-9db7-3753b9e6694b/81324ea5/20230627_councils_kodomokanren-jujisha_%20x2UksA0k_09.pdf