365日毎日、別々のホテルで暮らし、「ネオホームレス」としての自由で新しいライフスタイルを謳歌する野口昌一路氏。
派手な生活ばかりが注目されるが、実は20年以上もコンサルタントとして飲食業界に関わり続け、JALとANAそれぞれ年回50回以上利用するとなることができる上級会員を23歳で取得、さらに焼き鳥屋に関しては大手グルメレビューサイトの全国トップ100を制覇しているグルメのエキスパートでもある。
そんな彼が、コロナ禍の2020年より「CAの副業サポート」と称し、自らが持つ飲食コンサルタントとしてのノウハウを、マナーとサービスのエキスパートであるCAとマリアージュ。
客室乗務員経験者による飲食コンサル副業という、実に現代らしい尖った事業を始めていた。
今回は元CAの飲食コンサルタント・Aさんに社長直々にインタビュー。これまでに出会ったヤバい店を伺った。
▽Aさん
大学卒業後、大手航空会社にて客室乗務員として2022年まで勤務。2021年より現在まで、株式会社citrusの「CA副業サポート」にて飲食コンサルタントとして参加する。
いまだにモヤモヤ…麻布十番の〇〇屋さん
野口 今日はヤバかった店について聞かせてね。
Aさん ちょうどつい最近あった出来事なんですけど、夜、友達とご飯行くときに麻布十番のあるお店を電話で予約したんです。
18時スタートなら最後の席が空いているので取れますって言われて、迷ったんですがどうしてもそこのお店に行きたかったので18時で予約しました。
野口 ホントは何時に予約したかったの?
Aさん 19時半くらいです。だから当日は急いで仕事を終えてお店に行きました。でも、お客さん誰もいなかったんですよ(笑)
野口 それはご飯マズくなるよね。
Aさん 店員さんの出勤時間とか、オペレーションの問題かなと思ってみてたんですけど、店員さんめっちゃいるし、あれは何だったのかいまだにもやもやしてます。
けっきょく19時くらいからお客さんがちらほら入ってきて、最終的には満席くらいにはなってたんですけど、予約の電話のときは18時スタートじゃないと入れないみたいな口ぶりだったので。
野口 俺は食事のとき、1番大事にしているのはトータルでの居心地のよさ。
これは大きく分けると、ご飯の味、サービス、空間に影響されると思うんだけど、優先順位ってどう思う?
Aさん んー、サービス、空間、味の順番ですかね。だから味がいまいちなチェーン店だったとしても、接客とか他のクオリティが高かったら居心地よく感じますし、また来ようって思えます。
野口 (その考えは)素晴らしいね。
サービスがよくなれば空間ってよくなるんだよね。がやがやした赤提灯系のお店でも、超接客がよければアットホームでいい空間になるし、どんだけ綺麗で美味しい高級店でも接客がいまいちだったら味まで台無しになるから。だからサービスによって空間が変わり、空間によって味が変わるんだよ。それが居心地に繋がる。
Aさん 機内でもビジネスクラスなどではコースの料理を提供するので、オペレーションの大切さってものすごく理解できるんですけど、それを重視しすぎてしまうと、お客様にも伝わってしまいますし、居心地の悪さにも繋がってしまうので…。
野口 飛行機は限られた時間のなかでやらなくちゃいけないから特に難しいよね。
あれってサービスと時間だと時間が優先?
Aさん 到着時間はずらせないので、やっぱり時間が優先です。でも例えば天候の影響で予定通りのサーブができなかったとしても、残された時間で何ができるのかを考えて常に臨機応変に対応するよう心掛けてました。
野口 ちなみにその麻布十番のお店って何屋さん?
Aさん 〇〇屋さんです。
野口 どこだろ。俺、昔(まだ家があったころ)麻布十番に住んでたから分かるかも。地下?
Aさん 違います。
野口 「〇〇〇(店名)」?
Aさん え、すごい(笑) よくわかりましたね。
野口 俺、住んでたときに1回行ったことあるんだけど、なんか接客と料理が値段に見合わないなって思ったからめちゃめちゃ微妙な印象あった店だわ(笑)
Aさん 私だけじゃなかったんだ(笑)。ちゃんと繋がってるんですね。
クレームはお店に伝えるべき? 呑みこむべき?
野口 ちなみに飲食店にお客さんとして行って、そういう気になる点があったときってお店側に伝えてる?
Aさん 全く伝えないわけではないですけど、最近はあまり伝えません。
いくら気を付けててもミスや不手際はあるものですし、伝えることで自分の気持ちが萎えてしまう気がして…。
野口 気持ちが萎えるならよくないね。食事は楽しむための時間だから。
Aさん 野口さんは伝えますか?
野口 場合によるかな。
言うことによってモヤっとするようであれば言わないほうがいい。でも言わないほうがモヤっとすることもある。言わないでおいて、あとから「あーあのときなぁ」ってなるくらいなら伝えたほうがいいと思う。
Aさん 言う言わないの基準はどうしてるんですか?
野口 これも判断の基準は単純で「後悔するか・しないか」。
俺も昔は「良いか・悪いか」つまり「それをすべきかどうか」で判断してたんだけど、「良いか・悪いか」っていうのは理性の領分で、色んなことを計算するから判断が遅くなるし間違える。
でも「後悔するか・しないか」は感情だから、素早く判断が下せるし、自分の気持ちに従うおかげで間違いが少ない。
だから「〇〇〇(店名)」の件は、いまだにモヤっとしてるみたいだし、予約のときに満席って言われたんですけど…って伝えてもよかったかもしれないね。
Aさん そうですね…(笑)
野口 ただ伝えるときは、怒ったりせず哀しみを伝えるほうがいいね。
恋愛もそうだけど、「あなた何なの!」って怒るより、「私本当に悲しくて…」って伝えるほうがいい。
俺もいつも完璧にできてるわけじゃないけど、お店にミスとかがあったときは特にそういう意識でいるようにしてる。
Aさん 感情的にクレームをぶつけても、あまり上手くいくことはありませんからね。
ラグジュアリーホテルとスタバ…サービスの質はどっちが上?
野口 逆に、感動したサービスってある?
Aさん そうですね。飲食店ではないんですが、あるラグジュアリーホテルはサービスがきめ細やかでした。
朝食のビュッフェのとき、ちょうど私のお盆がなかったんですよ。そうしたらそれに気づいたスタッフの方が「〇〇様、申し訳ございません」って名前を呼んで真摯に対応してくれました。
ビュッフェっていう色んな人が入り乱れているなかでも、ちゃんと私の名前と顔を把握して対応してくれたことに感動しましたね。
野口 それはお盆がない時点でダメだわ(笑)
Aさん でもビュッフェでお客様の名前と顔を把握しているのってすごくないですか?
野口 それはすごい。でもすごいからこそ、お盆がないなんて初歩中の初歩でミスしているのがもったいない。
言ってしまえば、一流のサービスをしてるのに三流のミスをしている状態だよね。
それに名前を覚えるのは、そのホテルではマニュアルの範疇にある当たり前のサービス。だからお盆がなかった不手際とそのホテルでの当然のサービスをごっちゃにしちゃいけない。
野口 いいサービスっていうのはマニュアルが生んでいて、感動したり気持ちが動くようなサービスにはその先のアドリブが入ってる。
マニュアルじゃ人の気持ちは動かないんだよ。
Aさん そういう意味だとスタバのサービスはすごく素敵だなと感じることが多いです。
野口 自由だよね。
Aさん そうですね。きっとマニュアル化されてないから、自由で接客に個性もあって、毎回楽しみにして行けます。
レシートにメッセージを書いてくれるとか、手間にしたら1、2分程度で大したことじゃないかもしれないんですけど、された側はすごく特別な経験をした気持ちになります。
野口 最終的に人なんだと思う。
やっぱり気にかけてくれているかってことが大事なんだよ。お金を貰ってる、お腹を満たしてるっていう発想じゃなく、時間を貰っている、幸せを満たしているって発想になれれば、自然とそういうサービスができるようになるはず。
Aさん お店からすれば大勢のお客さんのうちの1組ですけど、お客さん側からすればその日の大事な時間を預けている1対1の関係ですもんね。
◇
突き抜けたグルメであり、飲食店の事情に精通する2人だからこその発想や視点が印象的だった。
重要なのは味ではなくサービス。
口に出してみるとどこか当然のように思える言葉だが、実際にどれくらいの飲食店がこれを意識できているのだろうか。
もちろんAさんが言う通り、ミスや不手際を完全に失くすことは難しい。
だからこそ、マニュアルに応じた機械的な対応ではなく、お客さん1人1人に寄り添ったサービスを心掛けることが大事なのだろう。
時間を貰い、幸せを満たしていくこと。これも当たり前だが、ついつい忘れがちになってしまう飲食店の本質に違いない。
◇ ◇
【取材協力】
▽野口昌一路(のぐち・しょういちろう)
2005年、成城大学経済学部を卒業後、大手コンサル会社に入社。2010年、独立しシトラスを創業。飲食業界に特化したコンサルティングサービスのほか、飲食店経営、不動産、デザイン、発送代行など多くの事業を手掛ける。飲食店経営は4店舗。業種も焼肉、イタリアン、和食、沖縄料理と多岐に渡る。2021年に現在のホテル暮らしを開始し、リュック1つで世界中を旅し続ける。モットーは3Sミッション「死ぬまでに知らないことを少なくする」。
Webメディア「ケムール」にて「ネオホームレス-自由と稼ぎの流儀-」を連載中。
Instagram:@uribodayo
Youtube:https://www.youtube.com/@user-tu8hp6xp5n/featured
(まいどなニュース・BROCKメディア/ケムール)