商品がないのに、3倍の値で売る転売ヤー→Amazonも適正価格を誤判断 社長自ら取った撃退策の結末は

宮前 晶子 宮前 晶子

「【注意喚起】 菊水産業の国産爪楊枝は全て完売して現在在庫がありません 現在Amazonに出てる1900円の商品は弊社が出している物ではありません!絶対に買わないようにしてください少しだけ在庫確保できそうだから出そうかと思ったのに転売ヤーに買われそうで出せない」

常々、問題となっている転売騒動。国産木材を用いたつまようじを製造する菊水産業(@kikusui_sangyo)も、高額で転売する人々には頭を悩ませてきました。そして今回、在庫がないものの通販サイトで商品を予約販売する『相乗り出品』を利用する無在庫転売事業者に遭遇。発見から総撃退までを、菊水産業4代目社長の末延秋恵さんに取材しました。

在庫もないのに…3倍以上の価格で売りつける転売ヤー出現

現在、頭に溝がある一般的な形の国産つまようじを製造する会社は全国に2社のみ。そのうちの1社である菊水産業は、北海道産の白樺の木を原料とし、薬品などは一切使用せず、大阪府河内長野市の地場産業であるつまようじの製造を行っています。

ロゴ入りの化粧箱に入った看板商品「きくすい 日本製 純国産しらかば楊枝 約300本入り」(税込み550円)の転売が発覚したのは8月20日。「普段から一定数注文が入る商品なのですが、数日前に商品の注文が一気に増加しまして、化粧箱の在庫が危うくなりました。そのため、在庫数とネット販売の在庫数の調整をやりつつ対応していました」。

完全に在庫がない状態にも関わらず、Amazonでは予約販売で商品注文を受け付けている状況に。「在庫もないし、いつお届けできるのかもわからないのに、9月2日〜3日にお届け、となっているし、価格も正規の価格の3倍以上で設定されているので驚きました」。

調べを進めるとこれは『相乗り出品』のシステムを使って、同社のページに出品しているということが判明。「別ページで転売されている場合は、この商品は違反ですとAmazonに報告できます。しかし、今回のケースは、弊社のページ上での販売。このページ自体を違反と報告しても大丈夫なのか?弊社の違反ということになるのではないか?と思って。どうしたら良いのかわからず、すぐには対応できませんでした」。

無在庫転売についてSNSで注意喚起をしたのが20日の午後8時頃。「販売事業者の所を見てください!国産爪楊枝に関しては自社出荷しているので、“この商品は、菊水産業株式会社が販売、発送します”となるはずが違う事業者名になっています」と呼びかけました。

「製造している弊社が在庫ないと言ってるのに、予約受け付けてどうするつもり?と思いました。そのタイミングで、“それ、相乗りしたうえで、別のつまようじを送る可能性も。それで、クレームだけが菊水さんに届くこともありえますよ”と日頃から仲良くさせていただいている国華園(@KOKKAEN_PR)さんが連絡をくださって。国華園さんも転売に悩んでいて自分たちでできる対策として、Amazonの商品写真の2枚目くらいに注意を載せていると教えてくれました。とりいそぎ、自分たちでできることはこれしかないと思い、画像を作り掲載しました」

製造元なのに、Amazonから「安すぎるから出品不可」の返答

同時に、21日朝からAmazonのカスタマーセンターに問い合わせ。「菊水産業も予約販売という形を取ってくださいと言われたので、化粧箱の納期はまだわかりませんでしたが、長めに設定して(9月下旬)予約販売に切り替えました」。これで解決に向かうかと思いきや、通常15分くらいで反映される予約設定の変更が一向にされず。

「おかしいなぁと思っていたら、カスタマーセンターから低価格によるポリシー違反で出品取り消しのメールが来ました。理由を問い合わせたところ、高額で出している事業者の商品をもう既に数名が買っている状況で、そちらが適正価格と判断されたと言われました。正規品であることを証明する資料として、自社サイトのURL、他社の通販サイトのURLが必要だとのことで提出したものの、今度は、いずれのサイトも在庫切れで購入不可なので、購入可能なサイトURLを提出して、と返信が来ました。この審査のために、在庫ありにして、もしお客様が注文してしまったらどうしよう、お届けできないのに…。ホンマに、葛藤しました」

悩んだ末、自社ECサイトの予約販売という形に設定して提出。Amazonからは、やり取りの6日後に当たる8月27日に調査完了の通知が届き解決。「今は、Amazonで予約販売する事ができています。注意喚起を見た複数のフォロワーさんがAmazonに報告してくれたようで、感謝しています」。

転売事業者に送り付けた出品取り下げメール

Amazonで自社製品を正規価格で販売できるように交渉する一方で、末延さんは転売事業者に直談判も行いました。直接メールを送ることをアドバイスしたのは、一連の様子を見ていたアパレルブランドnakota (@nakotashop)の代表、吉田真太郎さん。

「注文商品の製造、出荷業務やAmazonとのやり取りなどでてんやわんやの私に、DMで的確なアドバイスを送ってくれて、事業者に送る文面も一緒に考えてくれました」。

21日の17時半に相乗り出品していた4社に、出品取り下げメールを送ると、22日の午前中には3社消え、午後には全社が撤退。「直接メールを送れば、大概の会社は削除するとわかったので、今後に活かしたいです」。

転売対策に悩む製造業者たち。業務に集中したいのに…

同社では、国産つまようじ・国産黒文字楊枝だけでなく、木製のキッチン用品も取り扱い。職人が仕上げる日本製のキッチン用品は、きくすいブランドとして、主にネットや卸で販売しています。

「お正月商品も取り扱っていますので、年末になると、Amazonランキングに載り、そういう時だけ転売も増えます。楽天市場には出店していないのですが、楽天市場でも転売品をたくさん見ますし、自社が出店しているYahoo!ショッピングでもたくさん転売されています」。

投稿を見て、転売に悩んでいるという相談のDMやLINEが、事業者仲間から届いたそうですが、今回の騒動以前に、転売騒動や転売対策について、事業者仲間と話したことも。

「転売は逆に宣伝してくれているからいいじゃないかと言う意見、正規の値段以上に売れることがわかったんだから値段を上げたらどう?などの意見もあり…。製造業やオリジナル商品を作っている事業者さんとビジネスをしているベンチャー企業さんでは、思うことも違うような印象です」。

この騒動のため、本来やるべき業務が後回しになり、やきもきする日が続いたという末延さんですが、現在は各ECモール、自社ECサイトで予約販売を受付。末延さんを含めた5人で、工場を回し、受け付けた分の商品作りに毎日一生懸命取り組んでいます。「お客様がお困りになるようなことは、私たち製造業者は心が痛みます。やめて頂きたい」と力をこめます。

買い手側も高額転売に翻弄されないためにも、Amazonで複数の出品者があれば、販売元の欄を確認すること。また販売元からの出品がなければ、公式サイトなどで本来の値段を確認すること。特にテレビや新聞で紹介されたり、バズったりして、一時的に品薄になった商品は注意が必要です。

完売している際に「少々高くてもほしい」という思いが、悪徳業者に加担しているということを忘れてはいけません。

■菊水産業 @kikusui_sangyo
■菊水産業サイト
https://kikusui-sangyo.stores.jp/items/64f5a8023afb9c002b6d6090

■Amazon
https://www.amazon.co.jp/dp/B09XX1H87V?ref=myi_title_dp
■Yahoo!
https://store.shopping.yahoo.co.jp/kikusuisangyou/0173.html

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