<ビッグモーター不正・後編>保険トラブルに巻き込まれないために…契約者ができること 問題の背景にある「情報の非対称性」

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

今回のコラムは「<ビッグモーター不正・前編>悪質な構図…「一企業の問題ではない」「保険制度を根本から揺るがす」」に続く後編となります。霞が関の省庁間人事で、金融庁で保険業法、損害保険・生命保険制度を担当した経験もある豊田真由子氏が、ビッグモーター社の保険不正請求事件について、問題点や今後の見通し、消費者はどうすればよいかなどについて解説します。

【目次】
#1 ・事案の衝撃
#2 ・保険の不正請求の実態
#3 ・実際にどのような「被害」が生じたか
#4 ・車の販売・修理業と保険代理業を兼ねているのは、どういうこと?
#5 ・損保会社のかかわりは?
#6 ・今後どうなっていく?
#7 ・こうした事態を防ぐために消費者ができること

※本件については、各所管省庁による調査等が進められており、事態の進展も想定されますが、本稿は執筆時点(2023年7月31日)での情報に基づいたものです

車の販売・修理業と保険代理業を兼ねているのは、どういうこと?

中古車販売や修理、自動車整備を行うビッグモーター社が、損保会社の保険代理店にもなっており、中古車を購入した顧客に対して、代理店契約をしている損保会社の自賠責・自動車保険(※)への加入を勧め、一方、損保会社は、自社の保険に加入する保険契約者が事故などを起こした場合に、ビッグモーター社の修理工場を紹介するという構図になっていました。ビックモーター社は、修理の紹介実績に応じて、自賠責・自動車保険を各損保会社に割り振っていたという指摘もあります。

   ◇   ◇

(※)自賠責保険と自動車保険
自賠責保険は、法律で義務付けられ、自動車事故の被害者救済を目的とし、補償される範囲は「対人事故の賠償損害」のみで、支払限度額が定額で決まっています。
自動車保険は、任意保険で、対人事故の賠償損害につき、自賠責保険だけでは足りない部分を上乗せで補償するほか、対物事故の賠償損害や、自身や同乗者の死亡や傷害、自車の損害などを補償します。加入率は対人・対物賠償で約75%です(2022年3月末)。今回のような事故の場合の車両修理に使われるのは、「自動車保険」ということになります。

   ◇   ◇

保険代理店は、保険会社との委託契約により、その代理人として保険契約を締結する権限を与えられ、内閣総理大臣の登録(保険業法276条)が求められるなど、保険業法の様々な規制がかかります。

本業+保険代理業は、自動車関連事業だけではなく、例えば、住宅の販売や賃貸を行う住宅会社や不動産業者、銀行等が保険代理店となり、住宅の販売や賃貸の際に、火災保険を勧誘・締結するということもあります。

保険代理店には、1社の保険商品のみを販売している専属代理店と、複数の保険会社の保険商品を販売している乗合代理店がありますが、ビッグモーター社は、7社の損保会社の乗合保険代理店となっていました。

もちろん「車を購入した際に、どの保険会社と契約するか」、「事故の際に、どの修理業者に修理を依頼するか」は、車所有者の自由であり、勧められた保険会社や修理業者と契約しなければいけないわけではありませんが、「自分で探すのも面倒だし…」ということで、そのまま契約するケースも多いのではないかと思います。

消費者の色々な手間が省けるといったメリットもあり、こうしたシステム自体が必ずしもわるいとはいえませんが、事業者には、有利な立場にあるからこその厳格な自制が求められていると思います。

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