保険の不正請求の実態
さすがに今回のような事案は驚きですが、残念ながら「保険の不正請求」自体は、決して珍しいことではありません。であるからこそ、保険会社は、不正が行われないよう、そして、行われた場合には適切に発見できるよう、調査等を徹底してきている、ということになります。
不正請求は、自動車保険関係以外でも、例えば、
・経年劣化や故意による住宅の損傷を、自然災害によるものとして、火災保険金を請求。(近年は「保険を使って修理ができる」と勧誘する悪徳な住宅修理サービスが増えており、国民生活センターへの相談件数が6,560件(2020年)と急増しています。)
・住宅などに自ら放火して、火災保険金を請求。
・高級車や時計が盗まれたと装って、盗難保険金を請求
・医療機関等と結託して、入通院実績を捏造や水増しして、医療保険金を請求
等など、世の中の保険の不正請求の手口は、多種多様です。
個別事例について保険会社側がチェックすることのほかにも、通報窓口として日本損害保険協会が設置した「保険金不正請求ホットライン」や、契約内容、保険金請求歴、不正請求等について損保会社等が相互に情報交換をする制度があり、不正請求の手口や不正請求歴のある個人や組織に共通する特徴を検知するような方法もとっています。最近では、IT技術やAI技術などを用いた不正請求検知システムなどの開発も行われています。
しかしながら、基本的に、上記に掲げた不正請求のケースやチェックの対象は、保険金を受け取る保険契約者自身が、不正な請求を行っている、あるいは、加担しているというケースになるわけですが、一方、ビッグモーター社の件は、そうした一般的な保険の不正請求のイメージと異なり、保険契約者(自動車所有者)(※)は、「何も知らないうちに、自分の車を修理業者に故意に傷付けられ、本来よりも過大な保険金が支払われている」という状況であり、さらに、保険代理店自体が修理を行っている業者であるという構図が、より巧妙で悪質なものとなっています。
車所有者にとっては、「修理に出した工場で、わざと車に傷を付けられ被害を捏造されていても、すべて修理されて戻ってくるので、分からない」、そして、「修理代は保険で賄われるので、一見、自分は損をしていないように見える」ため、ビッグモーター社によって行われた不正が、車所有者や外部からは認識されづらい、という限界があります。
損害保険実務は、「修理業者は、適切な修理をしてくれる」「保険会社は、きちんとチェックをしている」という前提の下に成り立っており、今回の件は、その前提を根底から揺るがすものです。
◇ ◇
(※)自損事故や車同士の事故における自動車保険の適用については、①自車を修理する場合と、②自分に過失がある場合に、相手の車の修理を、自分の加入する自動車保険でカバーする場合等がありますが、議論をシンプルにするために、①のケースの話をしています。