大手企業で進む「中国リスク低減策」 パナソニックは、省エネエアコンの生産拠点を国内工場へ

治安 太郎 治安 太郎

パナソニックは先月、日本国内向けの省エネ性能が高いエアコンの生産拠点を中国から日本国内に移すことを発表した。生産拠点だった中国・広州にある工場の稼働を停止し、来年度にかけて滋賀県・草津にある工場に生産を一本化するという。草津工場では、今後雇用を2割増やし、生産ラインの自動化を進めるとしている。また、中国依存脱却となる今回の決定について、パナソニック側は米中対立などの地政学的なリスクを避ける狙いがあったと本音を暴露している。

この決定は、近年の日本を取り巻く地政学リスクを考慮すれば極めて妥当な決断と言えよう。昨年には経団連会長を務めたキヤノンの御手洗氏も、中国や台湾情勢を考慮すればできるだけ早く日本回帰か第3国シフトを急がなければならないと言及し、大手自動車メーカーのマツダやホンダも、サプライチェーンで中国とその他の地域をデカップリングさせ、中国依存を減らしていく方針を示している。日本を代表する大手企業の間では中国依存からの脱却を進める動きが拡大しており、今回のパナソニックの決定もその一環である。

また、パナソニックは過去中国で痛い目にあったことがある。2012年9月、当時の民主党・野田政権が尖閣諸島の国有化を宣言したことがきっかけとなり、中国国内ではメディアが一斉に対日批判を展開し、中国各地で反日デモが一斉に拡大した。その際にパナソニックは、プリント基板材料やプリント基板を製造する蘇州にある工場、スイッチなどの電子部品を製造している青島の工場で、それぞれ建屋、設備、備品の一部が破壊された。また固定電話を製造する珠海にある工場では、勤務する中国人社員10人あまりが抗議行動を行ったため、工場の操業が一時停止した。

こういった過去のジレンマが今回の決定に直接関係しているわけではないだろうが、今後混乱が発生する可能性は高まることから、パナソニックもさらなる脱中国依存を検討していることだろう。

依然として、中国依存からの脱却を図る日本企業の動きは全体としては鈍い。正直なところ、中国依存なくして生きていくことが難しい日本企業は多く、チャイナリスクという認識が広まっても、企業の存続を考えるとなかなか行動できないと考える経営者は多い。だが、そういう企業においても「リスク低減のため今できることはやる」という意識が必要で、こういった大企業が行っているのは中国からの撤退ではなく、リスク低減策だ。

むろん、中国から撤退しても十分にやっていける企業であればそれを進める方が得策であるが、「撤退不可能」な企業も経営上のマイナスを最小化するため、できそうな部分でまずは第3国へシフトし、国内へ回帰することを検討するべきだろう。大企業が動かないと中小企業はほぼ動かないので、まずは大企業が積極的に動き出し、それによってそれが中小企業の間でも広がっていくことが早急に望まれる。

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