先端半導体を巡る覇権戦争が今後いっそう激しくなりそうだ。日本は今年春、14ナノメートル幅以下の先端半導体に必要な製造装置、繊細な回路パターンを基板に記録する露光装置、洗浄・検査に用いる装備など23品目で対中輸出規制を実施することを発表したが、それが7月下旬から実行に移される。
この背景には米国からの強い要請がある。昨年秋に先端半導体が中国によって軍事転用されるリスクから、バイデン政権は対中半導体輸出規制を発表したが、バイデン政権は今年1月に製造装置を得意とする日本に足並みを揃えるよう要請していた。そして、バイデン政権は最近、7月下旬に対中規制を開始する日本と規制の範囲を合致させるため、中国への輸出規制対象品目を現状から拡大させる方針を新たに打ち出した。
中国は春に日本が米国と足並みを揃えると発表した時点で反発し、電気自動車や風力発電用モーターなどに欠かせない高性能レアアース磁石の製造技術の禁輸などを対抗措置として示していたが、今後日本の対中依存度が高く、しかも中国以外に代替先が難しい品目などで揺さぶりをいっそう掛けてくる恐れがある。コンピューター関連の部品、ノートパソコンやタブレット端末など中国依存度が高い品目には注意が必要だ。
ハイテク兵器や軍の近代化には、先端半導体がかならず必要となる。世界で影響力を強める中国だが、実は先端半導体分野では台湾や韓国、米国などに遅れを取っており、現状、中国はそういった国々が持つ先端半導体に必要な製造装置や技術を持っていない。軍の近代化を押し進める習政権としては、先端半導体は絶対に獲得しなければならない戦略物資なのだ。
日本としても、自らが持つ先端半導体に必要な製造措置が中国に渡り、それが人民解放軍のハイテク化を押し進め、いつの日か日本の安全保障を直接脅かすことになれば、自分の首を自分で絞めることになる。よって、1月に米国から要請があった際、日本が断る理由はなかったのだ。今後日本は、中国からの経済的報復があったとしても、それに耐えられる戦略物資の強靭なサプライチェーンを構築する必要がある。日本にとっても「先端半導体」は重要物資のひとつである。
半導体受託製造の世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県で工場建設を急ピッチで進めるのは、台湾有事によっては今のような半導体ビジネスができなくなる恐れがあるからだ。習氏が台湾統一を強調するのは先端半導体を総なめにするためだとの見方もあるが、TSMCはドイツにも工場建設を検討するなど、リスク回避のため積極的に動き出している。
そして、トヨタやソニーなど日本を代表する会社が多額の資金を当てて登場した次世代半導体の生産企業「Rapidus(ラピダス)」も2月、北海道千歳市に工場を建設して2027年から次世代半導体の生産を開始する方針を示し、韓国大手サムソン電子も2025年までに横浜で半導体生産を開始するため、300億円あまりを投資すると発表した。
半導体覇権競争が激化する中、日本としては米国だけでなく台湾や韓国など価値観を同じくする国々とも経済安全保障上の協力をいっそう強化することが望まれる。