「盲導犬のふるさと」が京都に ゴールデンレトリバーやラブラドルたちが訓練「なれるのは3割程度」の狭き門、余生はペットに

京都新聞社 京都新聞社

 京都府亀岡市の街中で時々ハーネスを着け、赤いベストを着た人を誘導して歩き、信号や段差では合図を送る訓練中の犬を見かけることがある。「犬と暮らしやすいまち」を2023年度から掲げ始めた同市にある彼や彼女たち「盲導犬」のふるさとを訪ねた。

 市南部の山間部にある木のぬくもりを感じられる半2階建ての広々とした犬舎(540平方メートル)で、盲導犬候補のゴールデンレトリバーやラブラドルたち約20匹が暮らす。全国に11ある盲導犬の訓練機関の一つ、関西盲導犬協会だ。

 京都市内の獣医師ら約10人で協会を設立した1980年当初は、右京区の民家で訓練していた。より伸び伸びと育てられる場所を探し求め、88年にかつて鉱山労働者の宿舎があった現在地に移った。ちなみに住所は亀岡市曽我部町「犬飼」。小芦英知所長(54)は「全くの偶然だが、何か運命的な縁を感じる」と笑う。

 外の庭で走り回ったり、ケージの中で他の犬とじゃれ合ったり、疲れたのか暖炉の前で昼寝したり-。普段の様子は、ペットの犬とあまり変わらない。飼われているのは1~2歳で、人間に当てはめると12~19歳。遊びたい盛りで活発なのもうなずける。

 犬舎内で1歳半の雌のラブラドルが、トレーナーの太ももの横にぴたりと付いてスピードを合わせて歩き、急な方向転換にもついて回っていた。小芦さんは「人と一緒に歩く感覚を養う、基礎の基礎のトレーニングです」と教えてくれた。野球に置き換えると「素振り」で、約1年間の訓練が終わるまで何度も練習するという。慣れてくればハーネスを着け、実際の住宅地や商業施設、歩道のない道路などを歩く。

 訓練を受けたら、必ず盲導犬になれるわけではない。人が好きでなつきやすいのはもちろん、どんな環境でも動じない適応力と集中力、指示に従う従順性、健康など求められるスキルは多岐にわたる。「なれるのは3割程度」(小芦さん)という狭き門だ。

 では、盲導犬になれなかった犬たちはどうなるのか。答えは「希望者に譲られて普通のペットになる」だ。引退した盲導犬や繁殖犬もボランティアに引き取られ、余生はペットとして過ごす。引退した2匹を育てている河野克子さん(60)=南つつじケ丘=は「ユーザーが大切にしてきた犬なので、ストレスなく最後まで過ごせるよう飼っています」と話す。

 小芦さんは「盲導犬のユーザーは便利さを求めているわけではなく、犬と生活して歩くことを楽しんでいる。ペットであり家族の一員なんです」と語る。だが今も盲導犬に関して、犬を強制的に働かせていると批判されたり、同伴入店を拒否されたりすることもある。目の不自由な人を助ける盲導犬が「暮らしやすいまち」は「どんな人でも暮らしやすいまち」に通じるのかもしれない。

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