5月7日から8日にかけて岸田総理が韓国・ソウルを訪問し、ユン大統領と会談した。前回両者が会談したのは3月下旬で、異例の短期間での再開となった。前回の東京での日韓首脳会談と同じように、岸田総理は今回ソウルで異例のおもてなしを受け、日韓両国は関係改善の動きが軌道に乗り始めたとの認識で一致した。両者は今月開催のG7サミットでも、バイデン大統領を交えた日米韓3カ国の首脳会談という形でまた顔を合わせる。
今回の会談で最も印象的だったのは、歴史認識に関連する両者の発言だ。岸田総理は歴代政権の立場を継承しているとの前提で、「当時の韓国の人々が厳しい環境のもとで悲しくて辛い経験をされたことに心が痛む」と発言し、ユン大統領は「歴史問題が完全に整理されなければ未来の関係に向けて一歩も踏み出せないということではいけない」という認識を示した。
特に、ユン大統領の発言は歴史問題を重視する韓国国民からすれば耳を疑うものであろうが、それは「日韓関係の改善は待ったなし」というユン大統領の強い決意でもあろう。岸田総理も以前、同様に日韓関係の改善は待ったなしと言及している。
では、両者がここまで関係を急速に強化させる背景には何があるのだろうか。そこには日韓が共有するいくつかの懸念がある。
まずは北朝鮮だ。今回の会談では両者は、核ミサイルによる挑発を繰り返す北朝鮮の念頭に、日米韓の安保協力による抑止力と対処力を強化することの重要性を改めて共有した。また、4月の米韓会談の際に合意したワシントン宣言では、北朝鮮の核について協議するグループの創設が盛り込まれたが、ユン大統領は米韓合意ではあるものの日本の参加も可能だとの認識を示した。
だが、最大の懸念事項は中国だろう。今回と3月の会談では直接中国を名指しで非難することはなかったが、中国の「急速な台頭」は日韓を「急速」に接近させている。4月のユン大統領とバイデン大統領の会談では、台湾海峡の平和と安全について強い懸念が示され、それが地域の安全と繁栄に不可欠との認識が共有された。また、ユン大統領は会談後の米メディアからのインタビューで、力によって現状を変更しようとする行動には反対だと名指しはしなかったものの中国への警戒心を示し、中国はそれらに反発し、今日中韓関係は極めて冷え込んでいる。
日中間の争い事項は周知の事実であるのでここでは割愛するが、韓国の経済シーレーンにとっても台湾周辺の安定は不可欠であり、今日の日本と韓国は多くの懸念事項を共有している。極東アジアでパックス・シニカ(中国主導による東アジアにおける平和)が到来することは、韓国にとっても望ましくないシナリオなのだ。
今回の日韓首脳会談では、韓国の半導体メーカーと日本の素材・部品メーカーが強固な半導体供給網を構築し、宇宙、AI、デジタルなど先端テクノロジーの分野でも関係を強化していくことで一致した。また、韓国は4月、輸出手続きを簡素化できる「ホワイトリスト(輸出審査優遇国)」に日本を復帰させるなど、日韓の間では経済、もっと言えば経済安全保障の関係強化が急速に進んでいる。これは明らかに北朝鮮ではなく中国を強く意識したもので、安全保障や経済、サイバーや先端技術など多元化する米中覇権争いによる被害最小化を目的とした日韓それぞれの動きである。
5月のG7サミットの際に開催される日米韓会談では中国に対してどの程度強いメッセージが発信されるのだろうか。日韓を急速に接近される最大要因は北朝鮮ではなく、急速に台頭する中国である。今日、習政権はユン政権の韓国に対する苛立ちを強めている。