度重なる“首相襲撃”が覆す「日本の安全神話」 G7広島サミットでも事件が起きれば日本外交の危機

治安 太郎 治安 太郎

4月15日、応援演説で和歌山の漁港を訪れた岸田首相を狙った襲撃未遂事件が発生した。岸田首相が演説を始めようとした直前、男が岸田首相の背後からパイプ爆弾らしきものを投げ込み、その後首相は現場からすぐに避難したものの、爆発と周辺の混乱によって警察官1人が軽傷を負った。地元警察は、兵庫県に住む24歳の容疑者を威力業務妨害の疑いでその場で逮捕したが、男は取り調べで弁護士が来てから全てを話すと供述している。

昨年7月に安倍元首相が奈良で撃たれ死亡したが、その際も襲撃されたのは応援演説の最中だった。両事件からは警備の難しさが浮き彫りとなった。来月には広島でG7サミットが開催されるが、その際は多くの海外要人が訪れ、ホテルなどで会合を開催することから、警察としては厳重な警備を敷きやすい。しかし、民主主義の根幹である選挙とは、本来候補者たちが国民に対して自らのビジョンや政策を訴える重要な機会であり、そこには厳重な警備というものは馴染まない。ここに選挙における警備の難しさがある。

また、今回の事件は首相の応援演説中での犯行ということで、これをテロ事件と捉える動きもある。事件のインパクトも極めて強く、不安や恐怖心が社会に広がったことから、その点を重視すればテロ事件と捉える動きも強いことだろう。

しかし、学術的にはテロという言葉に厳格に定まった定義は存在せず、1つ重要なポイントを挙げるとすれば、テロには政治的動機があるかどうかが重要な分岐点となる。

世界では、イスラム過激派や極右勢力によるテロ事件が依然として続いており、2024年の米国大統領選挙でも暴力的な白人優位主義者の動向に懸念が強まっている。しかし、こういった過激主義の背景には、「中東から欧米諸国を追い出す」「バイデン政権を退陣させる」「欧米から移民や難民を追い出す」といった政治的な動機がある。テロリストは、本来自らが貫く政治的な主義・主張を達成するため、暴力的手段で社会に不安や恐怖心を拡大させ、政権の政策を変更させる、政権を崩壊させることなどを考えている。

それに照らせば、今日容疑者が沈黙している段階で同事件をテロと定義することはできない。容疑者が岸田政権への不満を抱き、岸田政権の崩壊を狙って犯行に及んだのか、もしくは単なるイベント的な個人的理由に基づくものなのか、仮に後者であれば、我々はテロと断定することには慎重になるべきだろう。

一方、海外メディアもこの事件を一斉に報じた。米紙ニューヨーク・タイムズは、発生現場は安倍氏が亡くなった奈良に近いと報じ、ロイター通信や韓国聯合ニュース、英国BBCなども安倍氏の事件と関連させながら大々的に報じた。

安倍、岸田と日本の指導者たちを狙った事件が連続して起こったことに、平和で安全な国家日本のイメージが変わろうとしている。既に岸田首相は、今回の事件によって警備を強化するよう全警察に呼び掛けたが、広島でのG7サミットはそれを占う上でも重要となる。

仮に、G7でバイデン大統領などが事件に巻き込まれたとなれば、日本警察の警備能力に各国の疑念が広がるだけでなく、米中対立や台湾情勢、北朝鮮の核ミサイルなど安全保障上問題に苦慮する日本にとって大きな外交的損失になる。現在、日米関係に亀裂が入ることは何としても避けなければならない。

中国はそういった事件を機に、台湾情勢で軍事的挑発をさらにエスカレートさせ、北朝鮮は米国が台湾情勢に時間を割かれることを利用し、朝鮮半島での軍事的挑発をエスカレートさせる恐れがある。

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