パンダ好きにとってもマニアな情報ばかり パンダ来日の歴史51年を振り返る企画で意外な楽しみ方も

二木 繁美 二木 繁美

「パンダ好きなら見ておきたい」とパンダライター二木繁美がイチオシしたいのが「神戸文学館」(神戸市灘区)で開催中の『物語の中のパンダ 神戸「タンタン」と“なかまたち”』。パンダファンからは「癒やされた」という感想が多く、名建築でパンダの魅力と静かに向き合うことができます。

神戸市立王子動物園の人気者・タンタンほか、パンダの本にスポットを当てた約40冊のほか、1981(昭和56)年開催の博覧会「ポートピア’81」にやってきた、2頭のパンダに関する貴重な資料などパンダ好き必見の展示内容に。しかも無料です。

文学館でパンダ?となるかもしれませんが、「パンダという動物はさまざまな本に登場し、文学にも幅広く影響を与え、そして神戸の歴史ともつながっているんです」と同館の小阪英樹館長。パンダの歴史を振り返る年表に加えて、熱狂的なパンダファンとして知られる黒柳徹子さん、人気絵本「パンダ銭湯」の作者「tupera tupera」からの寄稿文も展示されています。

神戸にパンダが来るきっかけから

パンダと神戸市の歴史がつながるきっかけは、1981(昭和56)年に開催された、神戸ポートアイランド博覧会「ポートピア’81」。友好都市の中国・天津市からやってきた、つがいのジャイアントパンダ・オスの寨寨(サイサイ)とメスの蓉蓉(ロンロン)です。ここで、2頭のお世話をしたのが、神戸市立王子動物園から派遣された飼育員と獣医師。このときの実績が、2000年の興興(コウコウ)と旦旦(タンタン)の来園につながったのです。

当時、王子動物園の園長だった権藤眞禎さんと、飼育員だった村田浩一さん(現・よこはま動物園ズーラシア園長)に当時の様子を聞いてパネルにし、資料とともに展示。寨寨と蓉蓉の来日前に中国の担当者が神戸・淡河(おうご)の竹の葉のサンプルを持ち帰ったところ2頭が取り合ったほど好反応だったなどさまざまなお宝エピソードを楽しめます。

ちなみに、寨寨は神戸の竹を気に入りすぎて、来日中には食べ過ぎで体重が4キロも増えてしまったのだとか。さらには、ポートピアベビーなるか!?と関係者を期待させた展示中に発情が始まったといった驚きのお話もありました。

パンダ好きの記憶をたぐりよせながら

日本国内でジャイアントパンダを現在飼育している、神戸市立王子動物園、恩賜上野動物園、アドベンチャーワールドが全面協力し、資料収集もスムーズだったという今回の展示。そんななか、同館の小阪英樹館長が注力したのは、「パンダにまつわる年表づくりです。パンダの情報が漏れないようにするのが大変でした。たとえば、ポートピア’81では2頭のパンダが来日し、神戸にとっても大きなエポックとなりました。じつはその前にもパンダは日本にやって来ているのです」。

企画展を担当した学芸員で福岡市出身の田中幸さんは、「打ち合わせのときポートピア’81の話が出たのですが、それより前に福岡にもパンダが来たよなと思い出しました」。じつは、その1年前。1980(昭和55)年に中国広州市との友好都市締結1周年を記念して、福岡市へジャイアントパンダ2頭が友好親善使節として来園していたのです。このように、まとまった記録がないなか、パンダ好きの記憶もたぐり寄せながら、年表を作成していきました。

「私は小学生でパンダを見に行きたかったのですが、夏休み前に中国へ帰ってしまって。ショックだったのでよく覚えていたんです。見に行った友達も、人が多くてよく見えなかったと言っていましたね」と田中さん。その後、結婚して神戸へと引っ越し、子どもと行った動物園で衝撃を受けたのだそう。「神戸では、すごく近くで見られてびっくりしました。そしてアドベンチャーワールドへ行ったら、さらにたくさんのパンダがいて。希少な生き物に気軽に会える。関西すごい!と思いましたね」。

レアなパンダ本も

今回、パンダ関連の本を年代・ジャンル問わず収集し、「パンダの本は絵本から学術書まで幅広く、たくさんありすぎて絞るのが大変でした。子どももおとなも楽しめるように、絵本だけではなくエッセイなども加えました。最近は街中でも、子どもがスマートフォンで動画を見ているのをよく見かけます。そういう子たちにも実際に本にふれてもらって、本っていいなと思ってもらいたいですね」と学芸員の臼井七海さん。

そのうちの1冊、動物写真家・岩合光昭さんの本は、先述の田中さんが子どもの幼稚園で定期的に購入していたもの。「秘蔵の本です」と話す田中さんは、もともと岩合さんの撮る写真が好きだったため、大事に取っておいたのだそう。成長した息子さんのコレクションから借りてきたという人気漫画・呪術廻戦の非売品冊子までありました。

さらに、Q&A形式でパンダに関する疑問に答える「パンダ博士からの挑戦状」パネルもお楽しみのひとつ。なかには「解明されていません」という正直な答えも。パンダの生態にはまだナゾな部分も多いんです。「興味を持ってもらえるような面白いものを作りたいと思い、まだハッキリと答えが出ていない、正解に導けないものもわざと入れています。関西っぽく、『ないんかい!』とツッコんでいただければ」と臼井さん。

企画を進めていくなかで「パンダの深さを知った」という田中さんと臼井さん。パンダの顔の違いも見えてきて、もうパンダ沼のフチにいるといいます。そしてこの展示、すでに第2弾の構想もあるのだとか。「コンパクトな展示ですので、どれかにしぼると言うよりはすべてを見て欲しいです」(田中さん)と力を込めて語ってくれました。

なぜ文学館でパンダの展示を?

会場である神戸文学館は、神戸市立王子動物園からすぐ近く。1904(明治37)年に建てられた関西学院のチャペルをそのまま利用しています。「建物も見どころですね」と、話すのは同館の小阪英樹館長。こちらは関西学院発祥の地でもあり、レンガ造りで神戸らしく異国情緒ただよう建物は、神戸市の登録有形文化財にも指定されています。

もともと近所の方々の憩いの場であったという同館。「利用者は高齢者が多かったため、もっと若い層にも利用していただきたい、さらに動物園とも連携をはかりたいという思いがありました」隣接する神戸市立王子動物園と文学館をつなぎたい。そう考えたときに、同園の人気者・タンタン(現在は観覧休止中)の存在を思い出したのだそう。

「パンダは絵本や児童書にもたくさん登場しますし、根強いファンも多い。写真展もいいんですが、うちは文学館なので本でいこうと思いました。神戸と文学というと、あまりイメージはないかもしれませんが、近代作家の方々がここから海外へ行ったなど、意外と関係は深いんです」と、小阪館長。今後の展開については「パンダはもちろん、ゾウやカバなど違う動物でもやって欲しいとのお声をいただいています」と教えてくれました。次はどの動物になるのか楽しみですね。

◇ ◇

企画展は6月18日まで(追記:当初は5月21日までだったが、好評のため延長)。4月27日からは来場客の声を受け、カプセルトイでタンタンの缶バッジ(1回400円)が登場(1人5回まで・売り切れの場合あり。入荷状況は公式Twitterにて)。来館の記念やお土産にもよろこばれそうです。文学少年・少女に浸れそうな雰囲気の中、ゆったりとパンダ本との出会いを楽しんでみませんか。

【物語の中のパンダ 神戸「タンタン」と“なかまたち”】
■開催日時:2023年1月27日(金)~6月18日(日)
平日:午前10時~午後6時
土・日・祝日:午前9時~午後5時
■休館日:毎週水曜日(休日の場合は翌日) ※5月7日まで休まず開館。ただし5月8日(月)は振替休日
■料金:入場無料
■会場:神戸文学館(兵庫県神戸市灘区王子町3-1-2)
■イベント詳細 http://www.kobebungakukan.jp/#museum-info
■神戸文学館公式サイト https://www.kobe-np.co.jp/info/bungakukan/
■神戸文学館Twitter https://twitter.com/kobebungakukan

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