【パンダライター実録レポ】中国へ旅立った3頭に涙でお別れ 「ありがとう」最後まで笑顔をくれた永明・桜浜・桃浜

二木 繁美 二木 繁美

2月22日、和歌山県のアドベンチャーワールドから3頭のパンダが中国へ旅立ちました。今回旅立ったのは、同パークで16頭の父親となったグレートファーザー・永明(えいめい)。そして永明の娘でふたごの姉妹・桜浜(おうひん)と桃浜(とうひん)です。3頭は四川省の成都ジャイアントパンダ繁育研究基地で暮らすことになります。明浜・優浜の名付け親でもあるパンダライターが、同パークの3頭公開最終日と、中国への旅立ちの日を取材しました。

永明、桜浜、桃浜ってどんなパンダ?

1994年9月に来日し、国内最高齢の30歳のジャイアントパンダ永明。飼育スタッフによると永明は「穏やかな性格で、いつものんびりしていて、あまり怒ったりすることはありません」とのことで、ジェントルマンな態度でメスをリードし、16頭ものパンダのお父さんになりました。

2014年に生まれたふたごの桜浜と桃浜は、夏から秋にかけて誕生するパンダが多いなか、世界でも珍しい12月生まれ。姉・桜浜は、大きめの耳と少しはねた目のまわりのアイパッチの模様が特徴。食べているときにペロッと舌を出すクセがあります。「桜浜は本当にマイペースな性格です。寝ているときや食べているときには、スタッフの呼びかけを無視することもあります」(飼育スタッフ)。

妹の桃浜は、姉の桜浜より小さめな耳。横から見ると鼻が長くてお父さんの永明に似ています。「桃浜が好む竹は、品種や部位が決まっているわけではなくて時期によって違います。その時期に一番おいしい、栄養価が高いものを選んで食べているのです」と、飼育スタッフ。竹を選り好みするところはお父さんそっくりなのです。

永明が今回中国へ向かうのは、繁殖能力の優れた個体として帰国し、パンダの未来のための研究をおこなうとともに、高齢パンダのための施設が充実した故郷でゆったりと過ごしてもらうため。桜浜と桃浜は繁殖のパートナー探しと未来のための旅立ちなのです。

3頭公開最終日の朝

開園前のパンダたちを取材するために、タクシーでアドベンチャーワールドへ向かった筆者。運転手さんは、同パークに向かうのはこの日3回目だそう。「パンダちゃんでしょ? もう予約でいっぱいで配車を断ってる状態。一番早い人は朝5時50分にパークへ向かって、徒歩でゲートに入っていったよ」と、お別れを言うために多くの人々が来園していることを教えてくれました。

当日、ブリーディングセンターで報道陣に公開されたのは、永明と桃浜。ゆったりと屋内運動場に出てきた永明は、まず竹の下をゴソゴソ。ニンジンを発見しておいしそうに食べた後に竹を選んで、右あしにひじをのせる「永明スタイル」で竹を食べはじめます。これは落ち着いて竹を食べるときに永明だけがするポーズ。飼育スタッフさんたちが選んだ竹に大満足のようです。

永明から少し遅れて隣の運動場に登場した桃浜は、まず水をゴクゴク。「こっちを向いて竹を食べてくれ……!」という報道陣の勝手な願いをよそに、マイペースな姿を見せてくれました。そうこうしているうちにパーク開園の時間に。

最大120分待ちに

開園と同時にゲストはブリーディングセンターへと向かい、行列はどんどん伸び、午前中のうちに列の最後尾は、120分以上の待ち時間との案内が。「昨日は最大50分待ちでした」と広報担当者。観覧を終えて出てくる人々は、もう一度列に並ぶのか足早に去っていきます。中には2頭に会えて感極まって涙ぐんでしまっている人もいました。

そんな中、前日の夜19時に家を出て、車で駆けつけたという神奈川県の30代会社員の男性は、「(3頭は)もう戻って来ないと思うので、この機会を逃したくなかった。遠かったけどパンダのためなら苦になりませんでした」。観覧後には、「とてもよかった。じつは初アドベンだが、上野とは違う良さがあり感動した。永明たちにはこちらからありがとうと言いたい。しあわせになってほしい。桜浜と桃浜には、できればパートナーを見つけて戻って来てほしい」と語ってくれました。

兵庫県から母親ときたという大学生の女性は、じつは同パークのメスのジャイアントパンダ結浜(ゆいひん)の名付け親のひとり。結浜の姉妹とお父さんの旅立ちを見届けようと来たのだといいます。「永明の魅力はどっしりと構えているところ。桜浜も桃浜も生まれたときから見ています。いままでパンダに元気をもらっていました。本当は行ってほしくないけど……中国に行ってもがんばってね!」と笑顔で答えてくれました。

パーク内も歓送ムード

パンダラブの近くでは、横断幕に3頭へのメッセージを集めていました。この横断幕は3頭と一緒に中国へ持っていったのだそう。熱心にパンダを描いていたのは、大阪から来た5歳の女の子。母親が「ずっと海外に住んでいて、娘は昨日初めて日本で本物のパンダに会いました。会ってすぐに大ファンになってしまったんです」と話します。

ちなみに推しは結浜。昨日たまたまパンダラブで出会い、大好きになってしまったのだとか。ぎゅっとペンをにぎり、夢中で3頭の姿を描いている女の子。そのままパンダ大好きなおとなになってね……!

パーク内のレストランでは、3頭をイメージしたパンやスイーツなども販売されていました。筆者もレストランで、永明さんのラテと桜浜と桃浜のデザートプレートを注文。3頭のチョコプレートが飾られているのですが、これがまたよく似ているんです。

朝は取材でバタバタしていて感傷に浸るヒマもなかったのですが、ニッコリと笑う3頭を見ていると、いままでの思い出がよみがえってきました。いつもおだやかな表情の永明さん。ごきげんで竹を食べながらペロッと舌を出す桜浜。よく眠り、目覚めに大きな伸びをする桃浜。食べているうちにいろいろな場面がよみがえってきて、目頭がじんわりと熱くなりました。

涙とスマイルの歓送セレモニー

16時からは3頭の歓送セレモニーを開催。いつもはイルカやクジラなどのパフォーマンスが見られるビッグオーシャンは、2000名ほどのゲストで埋め尽くされました。セレモニーの様子は同パークの公式YouTubeでも配信。現在10 万回以上も再生されています。

今津孝二園長のあいさつのあとには祝辞のほか、中華人民共和国駐大阪総領事館・薛 剣総領事のメッセージが、方煒総領事代行によって読み上げられました。「3頭の中国への旅立ちにあたり、惜別と祝福の意を贈る。彼らのお世話をしてくれたパークスタッフのみなさま、日本のパンダファンに心より感謝を申し上げます」。

3頭への感謝の意を示すため訪れた総領事館の人々に、会場も大きな拍手と旗を振ってこたえていました。旅立ちの日には複数の中国メディアも取材に来ていて、パンダたちへの関心の高さがうかがえました。

3頭の紹介VTRのあとにはブリーディングセンターからの生中継も。発情兆候が見られるため公開休止のまま旅立つことになった桜浜も、この日はだいぶ落ち着いてきた様子。バックヤードでモウソウチクをもぐもぐする姿にファンも安心したのでした。さらに桜浜・桃浜の眠そうな姿に笑いが起こる一幕も。まるで2頭からの「スマイル!(笑って)」というメッセージのようでした。

ジャイアントパンダ飼育スタッフを代表して、パンダたちへのメッセージを読み上げたのは品川友花さん。「ジャイアントパンダの未来のため、あす3頭は中国へと旅立ちます。成都の研究基地では 繁殖技術や医療技術が年々向上し、さまざまな技術や知識を持つスタッフ、老年パンダの健康管理のエキスパートもおり、各個体にあわせた飼育管理が行われています。中国でもしっかりサポートを行って参りますので、3頭の新たな一歩をあたたかく見守っていてください」。これまで見守ってきた飼育スタッフの力強い言葉に、こらえきれずに涙する人も。

ゲストが横断幕に描いた3頭へのメッセージも披露され、ありがとうといってらっしゃいを込めて、会場では旅立つ3頭のために大きく旗を振って、見送りへの気持ちを表していました。

セレモニー翌日の22日は快晴。休園日でしたが、200名ほどのパークスタッフが見送りに駆けつけました。

今回取材した日本のファンたちは口々に「落ち着いたら、また3頭に会いにいきたい」と話していたことからもわかるとおり、日本で愛された3頭。ぜひ中国のパンダファンにも愛される存在になって欲しい。どこにいても元気で幸せに。愛らしい姿と雰囲気で人々を笑顔にしてくれる3頭に改めて「ありがとう」を伝えたいですね。

◇ ◇

これまで7頭のパンダが暮らしていた「アドベンチャーワールド」では、今は良浜、彩浜、結浜、楓浜の4頭がくらしています。10頭を育てた愛情たっぷりな母パンダの良浜、頭のとんがりがチャームポイントの結浜、小さく生まれて心配されたものの堂々たる姿に今や社長と呼ばれる彩浜、おてんばな末っ子の楓浜と、みんな個性豊か。3頭の中国行きが12月15日に発表されてから、お別れまでは約2カ月の期間でした。3頭に十分に会いに行けなかったという心残りのある方は、今いる4頭にいっぱい会いに行ってくださいね。

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース