ゲーム機「Nintendo Switch」のソフトは、子どもが誤飲しないよう表面に苦い成分を塗布しているー。人が不快に感じるデザインや設計の事例をまとめた企画展「世の中を良くする不快のデザイン展」が東京・丸の内のGOOD DESIGN Marunouchiで開かれています。訪れた人の「目から鱗」「面白い」といった感想ツイートが拡散して話題になっています。
デザインは使いやすく分かりやすい、見た目が美しいといった“快”の側面を重視したものが一般的。しかし同展では、暮らしの中で心理効果を利用して“不快”の側面からアプローチしているモノやコトにスポットを当てています。
人気ゲーム機Nintendo Switchのソフト(ゲームカード)を舐めるととてつもなく苦いのもその一例。誤飲を防ぐための設計です。世界一苦みの強い成分としてギネスブックにも掲載されている「デナトニウムベンゾエイト」が塗布されています。ちなみに食品添加物として認可されている成分のため、子どもが口に入れても安心だということです。
子どもにまつわる「不快デザイン」では他にも、ユニ・チャームのトレーニングパンツ「トレパンマン」があります。普通の紙オムツは表面がサラサラしていて濡れている感じがしないように作られていますが、こちらは同社製品比で10倍濡れている感覚がするそう。子ども自身が「濡れたパンツはなんだか心地悪い」と学習し、トイレに行って親から褒められる経験を通じて、自らトイレでおしっこをするように促します。
踏切の警報音は「最も汚い音程」
踏切では、危険な場所である印象を与えるため複合的に不快デザインが取り入れられています。まず黄色と黒色の組み合わせは動物が本能的に警戒する警告色。日本産業規格(JIS)で「注意」色と定められている黄色と、正反対の黒を組み合わせて強いコントラストを生み出しているという見方もできます。その色が施された「遮断かん」は、小学校低学年の子どもの目線の高さに来るように、80㌢の高さに設置することが法令で定められています。
さらに「カンカンカン」という警報音。この音色は、世の中で最も“汚い音程”と言われる「短9度音程」で作られています。半音隣り合った2音が繰り返し流れることで強烈な不協和音を生み、聴覚的にも危険な印象を与えているのです。
読みにくいフォント
あえて読みにくくデザインしたフォントも紹介されています。オーストラリアで開発されたフォント「Sans Forgetica」は、まるで文字の一部が消えかかっているような不思議な形。認知心理学の「望ましい困難」という理論の応用で、脳の記憶を掘り起こす作業が大変になるほど、学習力や記憶力が高まる効果を生かしているといいます。
展示では、神戸市役所1号館1階ロビーの空間デザインも解説。置かれている椅子のサイズや形状が不揃いで、木材もばらばらなのです。視覚的には違和感があるものですが、利用者はおのおのの体の大きさや用途に合わせてベンチにしたりテーブルにしたりと、さまざまな使い方をしています。画一的ではなく「曖昧さによって多様性のある空間を生み出そう」という意匠の例です。
これ以外にも、ペットの早食いを防ぎ、よく噛んで食べさせるため凸凹がある食器/NHKの緊急地震速報のチャイム音/都市ガスの付臭ーなどさまざまな事例が紹介されています。
同展は日本デザイン振興会と電通クリエーティブXが企画・制作。千葉大学の日比野治雄名誉教授が監修協力しました。クリエーティブディレクターの中沢俊さんは「社会からあらゆる不快を排除した先に、私たちにとって本当に快い社会が待っているのか、ということに以前から疑問を持っていた」とします。「本展示はそんな疑問へのチャレンジでもあり、今後の社会やデザインへの新たな発見の糸口になればと思っています」と話します。
入場無料。4月23日まで(会期中無休)。午前11時〜午後8時。東京都千代田区丸の内3丁目4-1 新国際ビル1F。03-6273-4414