1台のベビーベッドを大切に使い、およそ100年かけて100人の赤ちゃんを育てる―。そんなプロジェクトが京都府京丹波町を拠点に進んでいる。家具工房を営む夫婦が手作りしたベビーベッドは、2005年に使われ始めた。今年で19番目の赤ちゃんを育む。最初に使った赤ちゃんは20歳に。少子化や過疎化が進む中でも、輪はつながっていく。
町内の一軒家に今夏、木製のベビーベッドが運び入れられた。
田畑智恵さん(31)=同町和田=の次女として6月に生まれた柑夏(かんな)ちゃんは、このベッドを使う19番目の赤ちゃんになった。
マットレスの上にそっと置かれると、「あれ?今までと景色が違うなぁ」とばかりに、キョロキョロと周りを見渡し、手足を元気にばたつかせた。
ベッドの組み立てを手伝った長女の夏歩(かほ)ちゃん(3)も3年前、このベッドを使った「16番目の赤ちゃん」だった。妹の横に寝転び、ベッドとの久しぶりの再会を楽しんだ。
ベビーベッドが作られたのは2005年だった。京丹波町質美に工房兼店舗「つみ木家具店」を構える上田大輔さん(49)、亜紀さん(44)夫婦が、友人の出産に合わせて製作した。
材料にはホワイトオークを使った。シンプルなデザインを心がけ、オイルを塗って落ち着いた色合いに仕上げた。
柵の柱は八角形にカットし、小さな手でも滑らずになじむ。おむつ替えがしやすいよう、外開きの柵はマットレスの下に収納できるようにするなど、使いやすさに配慮した。
ベビーベッドをつなぐプロジェクトを口コミやSNSで知った出産前の家庭から「ベッドを使いたい」と希望する声が不思議と途切れなかった。
依頼がある度、上田さん夫婦が町内外の各家まで運んで組み立ててきた。
1年前後で使い終われば工房へ持ち帰り、次の赤ちゃんが安心して使えるよう、補修すべきところがないかメンテナンスをする。
「折りたたみ式ではない分、頑丈な作りになっている。大人が座っても大丈夫」と大輔さん。
亜紀さんも「納品と返却で赤ちゃんに会い、成長を感じられるのが楽しみ」とほほ笑む。
マットレスの下の床板には、これまでに使った赤ちゃんの名前がずらりと並んでいる。
七橙ちゃん
梓ちゃん
章吾ちゃん
海音ちゃん
英子ちゃん
晴敏ちゃん
稜太郎ちゃん
悠果ちゃん
はなちゃん…
「最初の子は20歳。みんな大きくなってるんやろうな」と上田さん夫婦。「長い時間をかけて成長する木の年輪のように、子どもたちの名が刻まれていけば」
ベビーベッドがつなぐ縁は、22世紀に向けて続いていく。