クレイちゃん(6歳・オス)は、2017年7月に保護された。民家の庭に、生まれて間もない子猫が7匹くらい固まっていたのだが、その中の1匹だったという。東京都に住むKさんは、その家の住人の友人だった。
「その日は天気が悪く、雨が降り出しそうだったので心配にした友人が、『どうしよう...』とSNSでつぶやいたので私も事態を知りました。お互いの家は気軽に様子を見に行ける距離ではなかったため、困ったね、心配だねと言うしかありませんでした」
友人は、当時飼っていた犬のかかりつけの動物病院に相談しながら、子猫たちが濡れないように傘を立てかけ母猫を待つことにした。しかし、母猫は数時間待っても戻ってこなかった。子猫達がそれ以上弱らないよう、日暮れた頃に意を決して保護し、動物病院に連れて行ったという。
「恐らく母猫の育児放棄だろうということで、子猫の命を繋ぐために先生と連携しながら一生懸命努力してくれました。でも、7匹とも目も開いていない状態で、特に身体小さかった4匹持ちこたえることができず、すぐに旅立ってしまいました」
クレイちゃんを含む3匹の男の子たちが残ったが、まだとても安心できる状態ではなかった。この3匹だけはなんとしても命を繋ごうと、友人が必死に世話をしてくれたおかげで全員無事に育ったという。
最後に残った子猫
当時友人が飼っていた犬は持病を抱えていたので、昼夜を問わず3匹の子猫にミルクを与えるのは容易なことではなかった。ましてや猫を飼い続けるのは現実的に厳しく、離乳食に切り替わった頃に里親探しを始めた。
「身体が大きくおっとりした性格の子、マイペースな茶色の子、兄弟たちは早々に里親さんが決まり巣立って行きました。なぜか1匹だけ里親さんがなかなか決まらなかったグレーの子。その子が我が家に来ることになったクレイです」
Kさん夫婦は二人暮らし。「いつか猫を飼いたいね」という意見は夫婦間でなんとなく一致していた。しかし、お互い動物を飼った経験がなかったので、具体的な予定は全くなく、夢の話でしかなかった。
「写真を見て、突然現れた子猫たちの成長を夫婦で一緒に見守っていました。そのうち私がどうしても迎えたくなってしまいました。突然巻き起こった話に何の心構えもなく、自信が持てなかった夫を説得して、半ば強引に我が家に迎えました」
早くキャリーから出せ
8月下旬、クレイちゃんを迎える当日、名前の候補について話しながら夫妻は静岡の友人宅まで車で向かった。
「実際に対面して子猫を手渡された瞬間、想像以上に小さくてふわふわした感触にビックリしました。帰路、出発する時、クレイはピーピー騒いでいました。でも、なぜか静かになったので、車の長旅で体調を崩したのではないかと不安になりました。キャリーをのぞくと、こちらの不安など気にも留めずスヤスヤ寝ていて、早々に笑わせてくれました」
道中、車内でクレイ(CLAY)という名前にした。
「夫が挙げた候補の一つでしたが、ふわふわでグレーの容姿を見て、クレイが合うということになりました」
家に着くと、クレイちゃんは、知らない場所に不安になるどころか、「早くキャリーから出せ」と大騒ぎ。部屋の準備をしていた夫妻は焦った。
「キャリーから出て一通り遊んだあとはへそ天でぐっすり眠り、翌朝にはしっかりトイレも済ませることができました。友人曰く、『我が家にいた時よりくつろいでる』とのことでした(笑)」
毎日愛情を受け取っている
クレイちゃんを迎える前は、覚悟は決めたもののやはり初めて動物を飼うことへの不安もあった。しかし、一緒に暮らしてみると、クレイちゃんは全く警戒心がなく、身を任せてくれた。Kさんも戸惑いを感じることなく、自然と世話をすることができたという。
「抱き上げた瞬間に生まれて初めて猫のゴロゴロ音を聞いたのですが、クレイが私を家族として認めてくれたんだと、とても愛おしく幸せな気持ちになりました」
クレイちゃんはごはんをモリモリ食べるので、目を見張るようなスピードで立派な体格になった。気が付けばもう5歳、体重も5キロを超えている。ママっ子なので、Kさんの背中に飛び乗ったり、一緒に寝転がったりする。
「こちらが身構える前に突然飛び乗ってくることが多いので、着地に失敗して背中に傷を残されることも多々あります(笑)。夫とも並んで昼寝をして仲良く過ごしていますが、遊びたい気分になると男同士のじゃれ合いという感じで、噛んだり飛ばされたり、当たりの強いやりとりをしています」
近所に住むお母さんも最初こそ慣れない猫に戸惑っていたが、すっかり孫のように可愛がり、あれこれプレゼントしてくれる。
「クレイは内弁慶なところがあるので外に出た時はビビりな猫ですが、家の中では全く物怖じせず、来客への対応も率先してしてくれます。知らない人が訪れても隠れることがないので珍しがられます。怖い経験をせずに友人に保護されたことが良かったのかなと思っています。私たちが愛情を注いでいるようで、実は、人が愛情を受け取っている毎日です」