スーパーの駐車場に捨てられていた子猫
マリーちゃん(メス)は、2013年4月、スーパーの駐車場に捨てられていた。千葉県に住む坂口さんがそのスーパーに車で買い物に行き、帰りに駐車場に戻ると段ボールがひっくり返っていて、そばで白い子猫がミャーミャー鳴いていた。その日は風が強く、駐車場なので轢かれる恐れもあり、誰にも朝まで発見されない可能性もあった。
「なぜ1匹だけ捨てられたのか、兄弟が多すぎて飼えないからなのか、何か病気がみつかって飼えないのか、なぜ1匹だけわざわざ捨てに来たのだろう」と考えた。ただ、夕飯前で、家に帰ってからもいろいろやることがあったので判断に時間をかけていられなかった。
「当時、小鳥が好きて買っていたので、もしこの子を連れて帰ったら襲われるかもしれないとも思いました。猫は庭を荒らすので大嫌いだし。あれこれ悩みましたが、『私が連れて帰らなければこの子は死んでしまうだろう』と容易に想像できたのです」
意を決して飼うことにした坂口さん。夫はもともと猫好きなので、即OKしてくれた。
絶対死なせないからね
手のひらに乗せると少しはみ出る程度の大きさ。お腹が空いていたのか、マリーちゃんはミャアミャア鳴き続けた。坂口さんは猫を飼うのは初めてで、その日は既にペットショップも閉店していたので、コンビニで買ったフードをふやかし、上澄みを翌朝まで与えた。ケージも持っていなかったので、ひとまず家にあった大きめの鳥籠に入れておいたという。
「猫は大嫌いだったのですが、それから毎日『絶対死なせないからね』と話しかけ、ネットでミルクの与え方や排泄のさせ方、保温の仕方などいろいろ調べて育てました。昼夜関係なく、2時間半おきにミルクを与えなければならなかったので寝不足になりました。その分、大切にしてきたという思い入れはあります」
ディズニーのキャラクターのマリーという白猫が大好きだったので、マリーちゃんという名前にした。マリーちゃんは、セキセイインコやオカメインコとも仲良くした。
特別な存在
坂口さんとマリーちゃんが出会ったのは、二人の娘が独立して家を出たので寂しかった時期だった。しかし、マリーちゃんを迎えてから、坂口家には猫中心の明るい毎日がやってきた。夜はその日にあったことをマリーちゃんに話しながら眠りにつくのが日課になった。
マリーちゃんはツンデレだったが、坂口さんが話しかけるといつも尻尾を振って返事をしてくれた。坂口さんは、オッドアイの宝石のような瞳をしたマリーちゃんの写真を撮るのが楽しみになってきた。
坂口家に来て8年。マリーちゃんは2021年7月16日、肥大性心筋症、僧帽弁不全症で亡くなった。
「マリーは娘であり、友達でもあり、恋人のような存在でもあり、私の人生に潤いと愛を運んでくれました。亡くなって一年以上経ちますが、今も心の中で特別な存在として生き続けています。何年経ってもその気持ちが変わることはないと思います」