鹿児島を拠点に活動している火山灰アーティストのKYOCOさん(39)が2月20日から、桜島の火山灰で猫を描いた作品展「ネコ展」を鹿児島市内で開催する(同26日まで)。「火山灰で描かれた猫を見るのは初めて」「自然体で豊かな猫の表情に癒される」「モノトーンの濃淡が素敵」などの声が寄せられており、猫好きの間で注目を集めている。
鹿児島・錦江湾に浮かぶ雄大な活火山・桜島。つい先日(2月14日)も噴火があり、小規模な噴火、降灰は日常茶飯事だ。噴火のたびに火山灰が道路や車、外干しの洗濯物などに降り積もる。雪のようには溶けないため、ほうきとちりとりで集めて灰専用袋に入れ、指定された回収場所に出すのも鹿児島ならではの光景だ。鹿児島人にとって、火山灰はまちのどこにでもある、いわば「やっかいもの」なのだが、KYOCOさんはそれを画材として有効活用し、身近な風景や静物などジャンルを問わず様々なものを描くことで、新たな息吹をもたらしている。
今回、猫の日がある週に「ネコ展」開催を思い立った理由をKYOCOさんはこう話す。「猫って今日はここが日向ぼっこにいいとか、この時間はここにそよぐ風が涼しいとか、気持ちよく過ごせる居場所を直感的によく知っていて、体の感覚や気分にすごく素直に生きていますよね。変化の激しい今の時代、そんな身近な猫たちの姿を通じて、私たちの日々の暮らしの今とこれからを見つめ直すきっかけになれば」
作品展では、表情豊かな猫のクローズアップや、日常の中でたたずむ猫など計18点を展示。KYOCOさんがこれまで出会い、思い出に残っている猫などを描いた。同時に受注販売会も開催。愛猫をはじめ、描いてほしいモチーフを伝えれば、あなただけの世界に一つしかない火山灰アートをキャンバスに描いてくれる(後日納品、価格は下記参照)。
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火山灰アートを始めたのは7年前にさかのぼる。当時、KYOCOさんは、桜島にある火山のミニ博物館「桜島ビジターセンター」で勤務していた。「2016年4月に起きた熊本地震の募金を募るため、何か鹿児島らしいことができないかと思っていたんです。その日も朝、噴火したので、灰を掃いて玄関前にこんもりと集めていました。他に絵を描ける人がいなかったので、ふと、その灰を手にとって地面にくまモンなどを描いてみたんですよ。そうしたら好評で(笑)」
その後、同センターを訪れる観光客らに向けて、ウェルカムボード代わりに火山灰で絵や言葉を描くうち「すごい!」「ワンダフル!」など賞賛の声があがり、その後、独立して「火山灰アーティスト」としての活動を始めた。
最初の約3年間は「自然に還す」ことをモットーにしていたという。「見てもらった後はほうきとちりとりで掃除をして、描いたものは残さないというスタイルでした。そのため作品はその場で楽しむだけ。一期一会だったんです」
だが、2020年、コロナ禍で帰省できない東京の友人から「桜島の絵を送ってほしい」と頼まれたのをきっかけに、KYOCOさんは灰をキャンバスに固定する方法を模索。試行錯誤の末、木工ボンドを水に溶かしてキャンバス全面に塗布する方法を編み出した。それによって作品を持ち出せるようになり、各地で作品展を開催できるように。同年の第33回上野の森美術館「日本の自然を描く展」入選をはじめ、これまで数々の美術展で賞を受賞。テレビや新聞など多数のメディアに取り上げられ「ネガティブなものでも発想を転換し、新たな視点で物事を捉えることで未来へのヒントが生まれる」などと注目を集めている。
現在は火山灰アートに興味ある人たちに向けたワークショップも開催しているKYOCOさん。「将来、火山灰を使ったアートを創作する人が増え、世界の国々に作品を発信していけたら素敵ですよね。火山灰アートが鹿児島の一つの文化に昇華され、それを見た国内や海外の方々が鹿児島や桜島ってどんな所なんだろうと興味を持たれて観光に訪れるといったように、火山灰アートを地域振興に繋げていくことが目標です」。「やっかいもの」といわれる火山灰が、鹿児島の人やまちを元気にする未来を思い描いている。
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【火山灰アート作品展「ネコ展」】
・日時 2023年2月20日(月)〜26日(日)10時〜20時(最終日は17時まで)
・会場 OPEN MUJI(マルヤガーデンズ無印良品店内)鹿児島市呉服町6−5 マルヤガーデンズ5F
・受注作品の最小サイズは22.7センチ×15.8センチ 5500円(税込)〜
▽KYOCOさんのホームページ
https://www.hikyoco.com