安全保障は安全保障、経済は経済―と、臨機応変に「2つの顔」 日本はオーストラリアの対中政策を注視するべき

治安 太郎 治安 太郎

今月に入り、オーストラリア政府は安全保障上の理由から、国内各地の国家機関に設置されている中国製監視用カメラを全て撤去する方針を明らかにした。アルバニージー政権のサイバーセキュリティ相によると、中国・杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン・デジタル・テクノロジー)と浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)の製造した監視カメラ少なくとも900台あまりが撤去対象となり、検察庁や外務省、国防省や気候変動・エネルギー省などあらゆる国家機関から撤去されるという。現在のところ、その時期や撤去理由など具体的なことは発表されていないが、米国とイギリスは昨年11月、同様に安全保障上の脅威になるとして、中国製の監視用カメラの設置を禁止する方針を打ち出した。

理由はそれほど難しくない。要は、外見上は監視カメラだが、その中には偵察用の記憶装置などが埋め込まれ、軍事や安全保障など国家機密に関わる情報が盗み取られるとの強い懸念があるのだろう。

今月、米国モンタナ州上空で発見された気球が東海岸を通過した大西洋上で米軍に撃墜され、それが中国の偵察用気球と分かり、それによって米中間で新たな火花が散っているが、それと問題の本質は同じである。これも習政権による軍民融合を警戒する欧米の行動の一環である。

一方、最近オーストラリアは中国との経済関係の再建に尽力を注いでいる。ニュージーランドのヒプキンス首相と会談したアルバニージー首相は7日、最大の貿易相手国中国との関係を強化する意思を示し、中国の王文涛商務部長と6日に行ったビデオ会談の結果、ファレル貿易相が近いうちに北京を訪問することで合意したという。

新疆ウイグル自治区における強制労働などの人権問題や、中国で拘束される豪州人の問題、南太平洋を巡る安全保障などを巡って両国関係は近年悪化し、中国は対抗措置としてオーストラリア産のワインや牛肉などの輸入を一方的に停止したりするなどしてきた。

アルバニージー首相は、中国に対するオーストラリアの立場は明確で、協力できる分野は協力し、必要なときには異なる意見を堅持し、オーストラリアの国益を守るために尽力するとの意思を示した。首相が、「政治や安全保障で壮大な理念や価値観を主張しても、現実は利益を重視して動かなければならない」とジレンマを感じているのか、もしくは、「政治と経済は分けて、上手く中国を利用して行けばいい」と楽観的に考えているかは分からない。しかし、中国に対して「2つの顔」で臨機応変に対応していこうとしているのは間違いない。

一方、バイデン政権主導の対中半導体輸出規制に加わる方針を発表したように、日本は米中対立の中で難しい決断を下す機会が増え、それは今後さらに増えるかもしれない。日本とオーストラリアが置かれる安全保障環境は異なり、日本の方が米中対立の狭間では難しい立ち位置かも知れない。しかし、オーストラリアのように、日本政府も「安全保障は安全保障、経済は経済」という姿勢で、安全保障に影響が及ばない範囲で、中国との間でもっと経済合理性を追求する姿勢を示すべきだろう。

今後、中国問題で米国の対日圧力が高まることもあろうが、日本にとっても中国は最大の貿易相手国であり、日中経済の完全なデカップリングはあり得ない。今後、オーストラリアがどのように中国政策を進めていくのか、中国の戦略的競争相手ではない日本が参考にできる部分もあろう。日本は、今後オーストラリアの対中政策を注視していくべきだ。

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