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悪化する日中関係 日本はグローバルサウス諸国に積極アプローチを インフラ整備や人材育成の歴史が強み

和田 大樹 和田 大樹

日中関係は緊張の度合いを高めており、その不安定性は東アジアの安全保障環境に深刻な影を落としている。高市首相による「台湾有事は日本の存立危機事態になり得る」との国会答弁は、中国政府の強い反発を招き、従来の「戦略的曖昧性」を脱却する言動として日中間の懸念を増幅させた。これに続くように、最近では中国軍機による自衛隊機へのレーダー照射問題が発生し、日中関係の冷え込みはしばらく収まりそうにない。

このような状況において、中国政府は、一連の問題に関する情報戦を強化している。特にレーダー照射のような具体的な事案においては、日本側に非があるとする主張を国内外に向けて積極的に発信し、国際的な世論形成を有利に進めようと試みていると見られる。

グローバルサウス諸国への情報発信強化を

これは、中国が国際秩序において自国の正当性を確立し、日本を含む周辺国の行動を牽制しようとする戦略の一環であると言える。しかし、この対立的な情報戦の局面において、日本が取り得る効果的かつ戦略的な手段として、グローバルサウス諸国に対する情報発信の強化が挙げられる。

今日の大国となった中国は、発展途上国や新興国を指すグローバルサウス諸国との関係を極めて重視している。これらの国々は、国連などの国際的な場における票田であり、中国が提唱する「一帯一路」構想などの経済圏構想においても重要なパートナーである。中国の外交戦略において、グローバルサウス諸国との連携は、米国やその同盟国が主導する国際秩序に対抗し、多極化された世界を志向する上で不可欠な要素となっている。

したがって、グローバルサウス諸国との関係悪化、あるいはこれらの国々が中国から離反するというシナリオは、今日の習近平政権にとって最も避けたい事態であると言える。中国が強硬な行動に出るたびに、それが国際的な規範や法の支配に反するものであれば、グローバルサウス諸国の間で中国に対する不信感や懸念が生じる可能性は無視できない。

大国間の対立に巻き込まれることを望まないグローバルサウス

日本は、この状況を最大限に活用すべきである。すなわち、中国との間で発生している諸問題について、国際法や既存のルールに基づき、日本側がいかに冷静かつ自制的に対応しているかを、グローバルサウス諸国に対して能動的かつ戦略的に発信するのである。

この情報戦は、単なるプロパガンダであってはならない。日本が発信する情報は、国際的な規範の尊重、地域の安定への貢献、そして何よりも、力の行使や威嚇による現状変更の試みは容認されないという普遍的な原則を基盤とする必要がある。日本が自国の行動の正当性を冷静かつ透明性をもって説明し、中国の行動がもたらす地域的な不安定さについて国際的な理解を求めることは、グローバルサウス諸国の対中認識に影響を与える上で非常に有効である。

多くのグローバルサウス諸国は、大国間の対立に巻き込まれることを望まず、自国の発展と安定を最優先している。日本が発信する情報は、こうした諸国の懸念に対し、日本は地域の平和と安定を重視し、国際協調に基づいたアプローチを堅持しているというメッセージを明確に伝える機会となる。

インフラ整備や人材育成などの実績が強み

また、日本は長年にわたり、グローバルサウス諸国に対して質の高いインフラ整備や人材育成など、相互利益に基づく開発協力を実施してきた歴史がある。こうした実績を背景に、単なる安全保障上の立場表明に留まらず、「自由で開かれた国際秩序の維持こそが、グローバルサウス諸国の持続可能な成長に資する」という包括的なビジョンを共有することで、日本の立場に対する共感を広げることが重要となる。

悪化する日中関係は、日本にとって大きな試練であるが、同時に、国際社会における自国の立場を再構築する戦略的な機会でもある。日本は、グローバルサウス諸国への発信を戦略的情報戦の一環として位置づけ、国際的なルールの守り手としての役割を強化することで、中国の戦略的な動きに対する外交的、情報的な抑止力を高めるべきである。この戦略的アプローチこそが、日本の国益を守り、地域の平和と安定に寄与するだろう。

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