鍋が恋しい季節。そんな中、大阪にある「天満貝蒸屋(てんまかいむしや)」の名物料理「貝蒸し」が評判になっている。旬の貝を山のように積み上げた姿が「映える」と大人気なのだ。切り盛りしているのは元フレンチシェフの森下政敏さん。なぜ、こんな盛り付けをしたのか。話題の貝料理専門店を覗いてみた。
有名ホテル出身の料理人が貝料理にチャレンジ
JR大阪環状線天満駅から徒歩約5分のところに貝料理専門の「天満貝蒸屋」がある。目を引くのは店頭にズラリ並ぶ貝類だ。店がある天神橋筋辺りは食いだおれの街、大阪を連想させるほど数えきれないぐらいの飲食店が軒を連ねているが、貝料理専門店は希少。オーナーシェフの森下政敏さんも「どこにもない店をやりたいと思いました」と話す。
もともと森下さんは神戸では名高い老舗の六甲オリエンタルホテルのフレンチレストランにいたが、ホテルの閉鎖に伴って独立。当初はリーズナブルに出したいからと現在の地にワインバルからスタートしたが、夢は捨てきれず、方向転換した。
とはいえ、フレンチ出身で貝の知識も乏しかったことから大阪市中央卸売市場にいる知人に、仕入れや料理法など貝の勉強を一から始めた。それが2018年のこと。そして2019年4月に念願の貝料理専門店をオープンさせた。
インスタ映えも考えた盛りつけ「貝蒸し」が話題
店はカウンター9席に4人掛けのテーブル席が2つ。貝は種類によっては1年中楽しめる。貝は日本酒やワインなどどんなお酒にも合い、ミネラルが豊富。女性にも人気で実際、今ではお客さんの6割を占めているとのことだ。
コロナ禍で大変な時期もあったそうだが、救世主となったのがいまや看板メニューとなった「貝蒸し」だそう。これは本来の味を楽しめ、栄養化も逃がさず、おいしく食べてもらうにはどうしたらいいかと考えたのが始まりだったが、独特の“盛りつけ”にしたことがインスタなどで話題になった。
「おいしいだけではアピールしづらい時代。“見せる”ための演出も必要と考えて、盛りつけはあえて山型にして盛り上げました」
発想の原点は「玉手箱」だという。貝の種類によって開く時間がマチマチ。それも考慮して貝を積み上げているという。蒸し上げていく過程で、貝がパカッ、パカッと順番に開いていくのだが、まさに玉手箱発想?見た目にも楽しい。
ちなみに貝蒸しの鍋の中はどうなっているのかといえば、鍋の底にカツオや昆布などでとったダシと醤油が入り、その上に網を引いて、貝を並べている。蒸し上がると、貝の旨味成分はダシの中に落ちる仕組みだ。最後のシメのラーメンがうまい理由はこのダシを使うからに他ならない。
貝蒸しの貝はホタテ、ムール貝、アサリ、ハマグリ、トリ貝など季節や仕入れによって異なるが、今の季節は牡蠣など7種類ほどが入る。貝以外にもカイワレ、春菊などの野菜や白身魚も一緒に蒸される。
干し貝で楽しむ日本酒も大人気
この貝蒸し以外にも、ホタテ・サザエ・赤貝・ホッキ貝・牡蠣・東錦貝など当日仕入れた「活け貝お造り3種盛り」や「牡蠣フライ」などもオススメだ。さらに、牡蠣やトリ貝などで作る干し貝も好評で「日本酒に入れて貝酒にし、熱燗で味わうとさらに風味が出ます」と森下さん。寒いこの季節、貝が好きな人には見逃せない店だろう。
◇「天満貝蒸屋」
大阪市北区天神橋5-5-29、営業時間は17時(土曜16時)~23時、火曜日休み、電話06-7897-2822、貝蒸しは1人前1600円から。