川上ミネさんと里山へ~その2~鉄爺友と会う#4

自給自足のランチ満喫、ゆで落花生、蒸し鶏、自家製パン…etc.

沼田 伸彦 沼田 伸彦

 国際的ピアニストの川上ミネさん、私の友人と3人で訪ねた一家は、兵庫県山間部の里山で徹底した自給自足の暮らしを営んでいる。奥さんは高校時代の同級生だ。

 ご夫婦は学生時代に知り合って結婚し、都会でサラリーマン生活を送りながら三人の娘をもうけ、一戸建てのマイホームも購入した。そんな何不自由のない暮らしを捨て、ご主人の実家のある現在の町にUターンしたのが30歳を過ぎた頃というから、35年ほども前のことになる。

 当初は実家に間借りしながら野菜や果物を植え、ニワトリやブタ、ヤギを飼いながら子供たちを育てた。そのうち、一念発起して一から十まですべて自分たちの腕だけを頼りにログハウス風2階建ての現在の自宅を数年がかりで建て上げた。現在はふたりの娘の一家もUターン、孫たちに囲まれてにぎやかな毎日を過ごしている。

 「自給自足の暮らしが究極の目標」という川上さんのテンションは、一家の拠点である手作りのログハウスの庭に車を停めたところからうなぎ上り。一方、音楽がきっかけで大学時代に知り合ったという友人夫婦の方も世界で活躍するピアニストの来訪ということで気分が高揚しているのがよく分かる。

 「ランチを用意して待っています」ということでお昼前に時間を合わせての訪問だったが、居間の大きなテーブルには、すべて自分たちで育てた素材を使った料理が所狭しと並べられていた。

 お互いに尋ねたいことは山ほどあるはずだが、その日は打ち上げの宴席も含めて丸半日近くの時間がある。まずは早速テーブルに着き、文字通り手作りのメニューを楽しむことになった。

 最初に勧められたのは大皿に山と盛られた落花生。殻ごと塩茹でされている。私自身は20年ほど前に2年間、東京に単身赴任していたころ、住まいが千葉県松戸市にあった関係で落花生を殻のまま茹でて食べるという食習慣には触れていたし、何度も口にしたこともあったが、関西に戻ってからは目にすることもなかった。

 軟らかくなった殻を剥くと、中からは小指の第一関節ほどもあるピーナッツが現れ、口にすると黒枝豆顔負けの甘さが広がった。隣では川上さんが「うわぁ~、これおいしい!」と声を上げながら次々に殻を剥いている。

 サニーレタス中心の野菜サラダはドレッシングも自家製、直前に夫婦で旅行したカナダの土産というチーズの周りには、庭で獲れたイチジクを干したものがあしらわれている。パンももちろん自分で焼いたもの。メーンディッシュとして登場した蒸し鶏は、500羽ほどを平飼いで育てているニワトリをさばいたものだ。デザートにはこれも自家製のカボチャのケーキをいただいた。

 ランチの後で案内された畑や紹介された動物たちの様子、大きなプールで育てられている数百匹の淡水魚…ただただ目を丸くしながら時間を過ごした。

 一年の半分をスペイン北西部にあるキリスト教の聖地、サンチャゴ・デ・コンポステーラを拠点に過ごす川上さん自身、サンチャゴの海の幸に惹かれて移り住んだというほどのこだわりを食に対して持っている。自ら包丁を振るって魚を捌く料理人でもあるのだ。川上さんが住む地方のガリシア料理の特徴もまた、豊かな自然の素材を生かした調理の仕方にある。落花生の一粒、野菜の葉一枚、肉の一切れ…すべての食材からにじみ出る豊かさを味わう川上さんの様子は、掛け値なしの幸せに浸っているように見えた。

 「もしよろしければ、またお邪魔させていただきたいです。その時は私にもガリシア料理をみなさんに振舞わせてください」

 どのようなマリアージュとなるのか。その日が待ち遠しい。

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