川上ミネさんと里山へ~その1~鉄爺友と会う#3

聖地サンチャゴに暮らす国際ピアニストin多可町

沼田 伸彦 沼田 伸彦

10鉄人爺さん、略して鉄爺。43年の会社生活を卒業し、「暇を持て余さない老後」をコンセプトに第二の人生にチャレンジする。里山、自転車、マラソン、旅にグルメに…。

 

 スペインと京都に拠点を置いて国内外で活躍するピアニスト、川上ミネさんと兵庫県の山間部で自給自足の生活を送る友人夫婦を訪ねた。

 川上さんとの出会いは1年前に遡る。2021年11月に神戸市内で開かれた40人ほどのワインパーティーに参加したところ、たまたま川上さんと同じテーブルになり、大いに盛り上がった。

 NHKの番組音楽、スカイマークの機内音楽の担当、世界を股にかけてのコンサート活動など大活躍の女性であるにもかかわらず、失礼ながら根ほり葉ほり、一からの話を聞き、目を丸くした。

 何より恥ずかしかったのは、彼女が住むスペイン西北端のサンチャゴ・デ・コンポステーラという町の名前すら初めて耳にしたこと。「キリスト教三大巡礼地の一つなんですよ」と丁寧に教えてもらった。

 今回、徹底した自給自足生活を送る私の友人夫婦を紹介することになったのは、世界中を肌で感じて回った川上さんがサンチャゴを住みかに選んだ理由と無縁ではない。そのとき、なぜ選りによってその町に?という質問に、彼女は「とにかく魚がおいしいんです」と答えた。

 マドリードから飛行機で1時間半ほどかかる決して交通至便とはいえないヨーロッパ大陸最果ての巡礼地。音楽活動や日本との行き来への利便性を考えると、ありえない選択だと思っての凡俗の質問だったが、川上さんの答えはたったひとこと。しかも簡単明瞭。正直打ちのめされた思いがした。

 その後、今年6月に京都で公私に親しくしているテレビ局の社長仲間の懇親会を開いた折り、帰国中だった川上さんをお招きした。その席で私の友人夫婦の自給自足生活の話をしたところ、彼女は「実は私の究極の夢は自給自足の暮らしなんです。是非お会いしてみたい」と目を輝かせた。そんな経緯で実現したのが、今回の里山訪問だった。

 姫路駅で待ち合わせて車で目的地に向かう道すがら、車窓から見える紅葉を前にした里山の景色に川上さんは何度も「素晴らしい」と感嘆の言葉を口にした。彼女はコンサート活動でも屋外の自然に恵まれた環境の中でピアノを弾くことにこだわる。

 愛知県の名古屋郊外の町に生まれ、高校を卒業するとミュンヘンの音楽大学へ留学。その後はマドリードの音楽大学院に学び、独特の音楽に触発されてキューバでも暮らした。南米の様々な国、アマゾンでの暮らし…想像もつかないような経験の中で培われた感性なのか、生まれ持つDNAのなせる業なのか。いま彼女が最も惹かれているのは北海道阿寒湖に近い村に住むアイヌの人たちの暮らしだという。

 今回のアポイントをまとめる過程でも、スマホでの連絡がしばらく途絶えたことがあった。後になって「電波の届かない場所に数日行ってまして」と笑いながら聞かされた。

 出会う前から、友人夫婦と川上さんの感性が、特別なテンションで響き合う予感は存分に感じられた。

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