あなたはレトロゲームの熱狂を知っているかーー。コロナの水際対策が緩和され、徐々にインバウンド需要が戻ってきている昨今、外国人観光客の目当てとなっているのは富士山・東京スカイツリー・寺社仏閣・寿司やら焼き鳥ではない! 80~90年代のゲームソフトやゲーム機=レトロゲームだ。
そんなバカな、と思うかもしれないが、外国人観光客は秋葉原の中古ゲームショップでソフトを買い占め、レトロなアーケードゲームを置いたゲームセンターを目指す。われわれ日本人が「スプラトゥーン3」の廃人になっている間に...。
もちろん、ゲームはアニメと並んで日本を代表するカルチャー。その価値は日本人がもっともよく知っているはずだ。しかし国外から見ると実際のところどう感じるのか? 外国人のレトロゲーム・コレクターに取材した。日本人とはちょっと別の視点から「レトロゲーム」人気の秘密が垣間見える。
取材したのは日本在住11年のヘンキ・レオンさん。本業はデザイナーで、筋金入りのレトロゲーム・フリークだという。
日本在住外国人コレクターは、インバウンドの買い占めをどう思うのか?
ーーヘンキさんはなぜ日本へ?
もう11年前、私がロンドンで務めていたデザイン会社の日本支社の立ち上げのために移住しました。今思うと会社は私をクビにしたかっただけだと思います(笑)。もっとも私は日本に住んで働きたかったので、夢が叶いましたね!
ーー外国人観光客のレトロゲーム買占めが話題になっていますが、日本在住の方としてはどう思いますか?
いいと思いますよ。ゲームは大切にプレイしてくれる持ち主のもとに行くべきです。何より、世界中の多くの人がゲームの”黄金時代”を体験する機会があるほうがいい。
ーーヘンキさんも、秋葉原の専門店でレトロゲームを買うことが多い?
いいえ。お金をいくらでもかければ、簡単に早く手に入れられるのかもしれませんが、私は手間をかけて特売セール品を掘り出すのが好きです。お気に入りのショップは、地元のBOOK-OFF。駿河屋。あとはフリーマーケットかな。メルカリも最高ですね!...妻に利用を禁止されるまでは(笑)。
ーー掘り出す醍醐味があるわけですね。レトロゲームならではの魅力とは。
多くの海外の愛好家が魅力と感じているのは「懐かしさ」でしょうね。現代はゲームソフトの多くがデジタル化され便利になりました。そのぶん、梱包・説明書・カセットやディスクといったフィジカルな要素がなくなっています。でもレトロゲームは、パッケージや箱を開けたり、説明書を読んだり、ディスクを鑑賞できる。それがとても楽しいんですよ。
そして、日本のゲームクリエイターへのリスペクト。初期のゲームはハードウェアの機能に制約がある中で、プログラマーたちがグラフィック・アニメーション・音などを付けるために天才的な方法を発明してきました。コレクターはその歴史に感謝しているんですよ。
どうしても手に入れたい激レアゲーム
ーーいままで掘り当てたなかで思い出深いゲームはありますか?
たくさんありますが、たとえばプレステ2の「ザ・警察官」(2001年)ですね。今では中々セールでは見かけないタイトルですし、当時ゲームセンターのアーケード版でプレイに熱中したのがいい思い出です。筐体にプレイヤーの動きを感知するセンサーがついていて、当時は革命的でした。
ーー(知らない...。)逆に、買い逃してしまったゲームは。
自分がめちゃくちゃ後悔しているのは、スーパーファミコンの「レンダリング・レンジャーR2」(1995年)が札幌の琴似という街のショップで特売セールされていた時のことです。
価格は1000円くらいでした…このタイトルをご存じの方なら、それがどんなに奇跡的なことかわかるでしょう! たったの1万本しか発売されず、しかも日本でしかリリースされていないソフトなんです。
しかし、当時の私は「今日はいいか」と棚に戻してしまったんです。いったい何を考えていたのか...。最近価値を調べたら約9万円~60万円ものプレ値がついていました。本当に悔やみます。
ーーそ、それは痛い…。これからどうしても手に入れたいゲームはありますか?
ゲームソフトではありませんが、「ワンダーメガ」というゲーム機が欲しいですね! 1992年にセガから発売された機種ですが、未来的なハードウェアの要素を兼ねそろえていて、本当に美しい端末なんです。
現代に引き継がれるレトロゲーム愛
ーーヘンキさんはデザイナーとのことですが、デザインの視点からレトロゲームはどう映りますか。
素晴らしいです。ある意味、ゲームの内容よりもデザインのほうが私にとっては重要なくらいですね。
今のゲームは高性能な3Dグラフィックが満載ですが、レトロゲームならではのピクセルグラフィックはアートそのものですよ。「PCエンジン」「ゲームボーイ」「NEOGEO」...ロゴやアイコン・様々なグラフィックを比べると、それぞれのブランドのアイデンティティとスタイルが確立されています。それらが本当に魅力的で、デザイナーとしてもインスピレーションをもらえるんです。
ーーたしかに時代がかったピクセル絵や、チップの音を使った最新のゲームも見かけます。実際にレトロゲームをデザインの仕事に生かすこともありますか。
もちろん。私がロンドンのオフィスで働いていた頃、アニメのミュージックビデオを監督したことがありました。その時に私がインスピレーションを受けたのがコナミの「パロディウス」(1988年~)だったんです。パロディウスのユーモアや奇抜さは、私をより想像力豊かにする手助けをしてくれました。
ーー日本に住んで11年ということですが、日本文化にとってレトロゲームはどんな存在だと思いますか?
ビデオゲームのアート性やエンターテインメントの精神は、私たちの社会に深く根付いています。特に日本は何十年にもわたってゲームを作ってきましたから、レトロゲームは現代の日本文化の大部分を形成しているように見えます。私を日本の言語・文化・慣習などに繋げてくれたのもレトロゲームです。
ありきたりな言い方かもしれませんが、レトロゲームは人々を魅了し、強く結びつけてくれます。たとえばNINTENDO64『マリオカート』の4人同時プレイはオンラインプレイとは違って、プレイヤー同士がその場に集まって盛り上がるから楽しいんですよね(笑)。ほかにも西荻窪のMETEORというショップで毎年開かれる「わたしのファミカセ展」を知っていますか? 世界中のレトロゲームファンが、自分でファミコンのカセットをデザインして展示するイベントなんです。
◇ ◇
インバウンドの買い占めが話題になっているレトロゲームのコレクターの世界をちょっと覗いてみた。
日本人として、ヘンキさんの言う「ゲームの黄金時代」を振り返ってみたくなった。レトロゲームが海外の熱心なフリークに買い占められたら、どえらいプレ値がついて二度と日本に戻ってこないかもしれないのだし(まるで浮世絵のように)。
最後に「『スプラトゥーン3』はやっていますか?」と聞いてみたところ、「『1』も『2』も持っているし、もちろん『3』でもオンラインのマルチプレイヤーモードの中毒です」とのことだった。
(まいどなニュース/BROCKメディア・祢津 悠紀)
【取材協力】
▽ヘンキ・レオン
デザイナー。デザイン事務所「Airside Nippon」所属。NIKEやGoogleなどの有名ブランドのビジュアルから、和菓子のデザインまで手がける(御菓子司 甘養亭)。最近の仕事は電子たばこ「SV✕KAMIKAZE」パッケージデザイン((株)ライテック)。
▽Airside Nippon
https://airside.jp/work
▽株式会社ライテック