「日本の政界における世襲」は、各国と比べても飛びぬけて多く、国政選挙のたびに問題とされますが、岸田総理が長男を秘書官としたことで、改めて注目されています。
非世襲議員として政治の世界に身を置き、今はメディアで、国民の側からのいろいろなご意見をうかがう立場のわたくしには、両者の言い分が、どちらもしみじみとよく分かります。今の時代、世襲の問題に限らず、「政界の常識」は「世の中の非常識」になってしまっていて、そして、何をやっても裏目に出てしまい、両者の溝はますます拡大し、国民の政治不信は高まる一方、という悪循環にあるように感じます。
もちろん世襲にも立派な人はいますし、おそらく世の中のご認識とは違って、(昔のことや上の世代のことは分かりませんが)、政治の世界で生きるというのは、365日神経をすり減らす本当にしんどいことで、「日本を良い国に、国民を幸せに」と、心底思ってがんばる議員も、世襲・非世襲問わず、ちゃんといます。
とはいえ、長く経済が停滞し、コロナ渦もあり、厳しい状況にある国民の方も多い中で、一見きらびやかに見える公職である議員という地位を、不平等に維持し続けていることは、なんであれ公正さが強く求められる今の時代に、許容されなくなってきています。
世襲や有力企業一族の議員が多いことは、ある意味、日本政治の制度上の必然の結果で、複雑で底深い歴史と事情があり、これを変えるのは容易なことではないですが、されど、政治だけが旧態依然としたままでよいわけもありません。
では、どうするか?
こうした日本政治のリアルを明らかにし、その問題点や今後について、5回シリーズ(①世襲の実態 ②世襲の問題点 ③世襲が多い本当の理由 ④公募のリアル ⑤海外から学べること・議員に求められること)で考えてみたいと思います。(全5回の1回目)
【目次】
第1回
・世襲議員はどれくらいいるか?
・総理や閣僚に世襲議員の占める割合
・世襲についての受けとめ方
第2回
・世襲はなぜ問題とされるのか?
・他の職業における世襲との違い
・世襲議員もつらいよ
第3回
・“政治は世襲でよいのでは?”について
・日本に世襲が多い本当の理由
・具体的な「世襲の力」とは?
(1)「家」「血統の正当性」が、大きな説得力を持つ
(2)後援会はファミリー、運命共同体
(3)人脈と「親の恩」は、無形の財産
(4)一般人の候補者は、資金もノウハウもなく、すべて自力
第4回
・公募のリアル
(1)公募の実態
(2)公募がもたらす軋轢と負荷
・「信じられるのは身内だけ」という現実
第5回
・海外の状況から分かること
・有権者が議員に求めることは
・では、どうするか?
世襲議員はどれくらいいるか?
時事通信の調査(2021年10月)では、「父母、義父母、祖父母のいずれかが国会議員、または三親等内の親族に国会議員がいて同一選挙区から出馬した候補」を「世襲」とすると、2021年衆院選は131人が世襲で、前回の128人から3人増で、新人は24人。全体に占める世襲候補の割合は、12.5%(前回比1.6ポイント増)
政党別に見ると、自民党が、前回比1.2ポイント増の29.5%(99人)。次いで立憲民主党の10.4%(25人)。公明党、日本維新の会、国民民主党の世襲候補はいずれも1人。
この調査では、「世襲」を、国会議員である親族から引き継いだ場合に限定していますが、地元での影響力の大きさや、資金を引き継ぐことなども考えれば、「父母・義父母が、同じ地域で首長・県議を務めていた場合」くらいまでは、世襲に含めて考えた方が、実態がよく反映されると思います。
この点、キャスターで社会学者の安藤優子氏の著書(「自民党の女性認識 『イエ中心主義』の政治指向」)において、親族に首長や地方議員が存在する場合も含めて考えると、2014年の衆院選において、自民党議員の41%(男性40%、女性48%)が血縁継承者とされています。
これらも踏まえ、本稿では、与党であり世襲割合も最大である自民党について、考えます。
そして世襲議員は、与野党問わず、やはり選挙にめっぽう強く、日本経済新聞(2021年10月19日)によると、1996年10月に小選挙区比例代表並立制が導入されてから、その時点までの8回の衆院選の小選挙区候補者、延べ8803人について、世襲候補の勝率は、比例復活当選を含めて80%に達し、一方で、非世襲候補は30%とのことです。
国政選挙のたびに、「新人や若手、女性の候補者が少ない」「候補者多様化への道は遠い」といった指摘がなされますが、現在の日本の政治システムや、政治の現場の実態から考えたら、それはまさに当然の帰結であり、「なぜそうなっているのか」、「世襲や有力企業一族でない者が公認候補となるのはどれほど困難で、なんとか入った後も続けていくのがどれほど大変か」、一般社会とは大きく異なる政界の価値観の実情を踏まえた上で、こうした本質と向き合わなければ、解決のしようがないと思います。
総理や閣僚に世襲議員の占める割合
小選挙区制が導入されて以降(1996年~)の内閣総理大臣12名のうち、世襲でないのは3名(菅義偉氏、野田佳彦氏、菅直人氏)で、自民党に限れば1名(菅氏)、他は全員世襲ということになります。そして、現在(2022年10月24日時点)の第二次岸田内閣における閣僚20名のうち、12名が世襲です。歴代総理や閣僚に占める世襲議員の割合は、全議員の中に占める世襲の割合より、格段に多いということになります。
選挙に強い、人脈が豊富、資金力がある、といったことはもちろんですが、世襲議員は、若い時期(2~40代)に、地盤を引き継いで国会議員になります。親が永田町や地元で“力”を持っているうちに子どもに譲ることで、周りのいろいろな危険をけん制し、アドバイスをしながら、一人前に育つのを見守ることができます。
政界で当選回数・先輩後輩の序列は「絶対」で、そして、閣僚になるには、当選回数が重要なので、そうすると、若いうちに議員になった世襲の人が、断然有利ということになります。60代で初めて議員になった場合は、閣僚の適齢期数になる前に引退になってしまいますが、2、30代で議員になった場合は、世襲だと選挙も強いですから、期数を重ね、力を持ち、閣僚になる、というシステムです。
世襲についての受けとめ方
「政界の世襲」について、わたくしも意見を述べさせていただいた朝の情報番組(10月12日)で、政治評論家の田崎史郎さんが、「世襲候補は、地盤・看板・鞄が揃っているため、100m走にたとえると、4~50m先からスタートするのと同じ。世襲の人は、あくせくせず、ゆとりを持って、勉強の時間や様々な機会を得て、蓄積ができる。だから総理総裁にもなる。」とおっしゃっていました。
それに対して、起業家の安部敏樹さんが、「最初から50mのハンデがあったら、(世界最速の)ウサイン・ボルトでも勝てない。今の時代に、それをOKとしてしまってはいけない。国会議員が世襲に偏ることは、不平等で、民主的とはいえない。」と返されました。
ジャーナリストの浜田敬子さんは「海外では、3,40代の首脳が立派に政治をやっている。日本は、年功序列で、年配の人たちだけが、政治の世界を仕切っていることが問題。経験も考えも同質になってしまう。若い人が入ってこない。多様性が必要。」とおっしゃっていました。
これはまさに、同じ事象を、どちらの側・価値観に立って見るか、時代の変化に敏感であるかで、大きく評価が違ってくる、ということを表していると思います。
ちなみに、非世襲議員は、政界における格差、世襲や有力企業一族の議員をどう思っているのか?について、私の実感を申し上げると、意外と「実はそれほど気にしていない。確かに、いいなあ・・と思うこともあるが、議員は皆それぞれ大変なのだと分かっている。」でした。理由は、日本の政治ってそういうもの(世襲が多い、格差はある)と認識していること、皆、政治という苛酷な世界で必死で生きており、互いにリスペクトや理解があること、そして、自分たちはお金や権力は無いけど、政策や仕事でがんばろう、と思っている、といったようなことだと思います。
(続く)