世襲議員が引き継ぐ「地盤、看板、カバン」一般人候補とは歴然の差 豊田真由子が分析「政界の世襲」のリアル(3)

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

「日本の政界における世襲」は、各国と比べても飛びぬけて多く、国政選挙のたびに問題とされます。世襲や有力企業一族の議員が多いことは、ある意味、日本政治の制度上の必然の結果で、複雑で底深い歴史と事情があり、これを変えるのは容易なことではないですが、されど、政治だけが旧態依然としたままでよいわけもありません。問題点や今後について、5回シリーズ(①世襲の実態 ②世襲の問題点 ③世襲が多い本当の理由 ④公募のリアル ⑤海外から学べること・議員に求められること)で考えてみたいと思います。(全5回の3回目)

“政治は世襲でよいのでは?”について

「政治の世界は特殊だし、世襲でよいのでは?」という見方があります。

実は、私(非世襲)も政界にいるときは、そう思っていました。政界では世襲が当たり前でしたし、ちゃんとしている方も多く、「政治の世界独特の価値観や生き抜く方法を、幼い頃から実地で学び、いろんな経験をした上で、円滑に順調に政治活動ができること」は、ご本人や関係者のみならず、国や国民にとっても「良いこと」なのでは、と思われたからです。

ただ、政治の世界から離れて、「政治家も相当しんどい仕事なのだけど、なぜ、『楽で、あくどいことをしている』と思われてしまうのだろう?」と、ずっと抱いてきた疑問について改めて考える中で、政界と国民の間に横たわる深い溝、価値観の違い、そしてその差が、時代の流れの中でどんどん大きくなっている、けれど、政界にいる人たちは、そのことに気付かない、という状況は、かなり深刻なことなのではないかと思いました。

政治が私的に独占され、新陳代謝が行われない、幼少時から恵まれた環境にある方が多く、社会の格差や多様性等を実感しにくいことで、社会的経済的等で困難な状況にある方への真の理解が働きにくい、また、国民に、利権のために行っていると思われ、政治そのものへの信頼を損なう、といったマイナスもあると思います。

「政治の世界は特殊だから」、「いくら世の中とずれていっても『政治の当たり前』はそのままでよい」と考えていては、この国は、なにかを大きく間違ってしまうのではないか、とも思うに至りました。他の先進国の政治状況を見ても、日本の旧態依然としている状況が際立ちます。

もちろん、現在の政界の重鎮の方々含め、明治維新から初の帝国議会、戦後の焼け野原から今に至るまでの、先人の苦労や葛藤は、それはもう筆舌に尽くしがたいものがあると思っています。数年政治を経験しただけのひよっこに何が分かる、とお思いの方もいると思います。ただ、全く外の世界から入って、日々びっくりな出来事に遭遇し、大きな失敗をし、そして今はメディア等で多くのご意見をうかがう立場にいる者として、私なりに感じたことを基に考え続けていくことは、ささやかながら己の責務のようにも思うのです。

今回の連載は、「世襲がいい・悪い」といった単純な話ではなく、外からでは分かりにくい政治のリアルを明らかにし、皆様にお考えいただくベースをご提供するといった趣旨も込めて書いています。

日本で世襲が多い本当の理由

政界に世襲が多いのは、「地盤(票)、看板(知名度)、カバン(資金)があるから」というのは、よく言われることで、それは確かにそうなのですが、ここで、もう少しその意味するところを深堀りしてみたいと思います。

世襲や名家・資産家一族の人は、票や資金があるから「有利」だと思われていますが、実は、票や資金をあらかじめ持っていることは、単なる「利点、アドバンテージ」ではなく、むしろ、自民党の公認候補として選ばれるための最初の段階における「必須条件」「当然の前提」であり、それらを持たない者が選ばれることが、極めて例外的、なのです。

この点、「自民党の女性認識 『イエ中心主義』の政治指向」(安藤優子氏著:明石書院))では、自民党選対本部関係者への聞き取り結果として「政党が個々の候補者の面倒を見ることには限界があり、自民党は『選挙は自己責任で、自己資金は一定程度必要』と明確な姿勢を打ち出している。」ことが示されています。

そして、自民党の候補者選定の「ホンネ」の基準として、以下のように整理されています。

①個人後援会(知名度+集票力)― 世襲、地方議員、有名人、職業団体
②政治家の「イエ」に属する(知名度+集票力+資金力)― 世襲
③地元名士の「イエ」に属する(知名度+集票力)―  地元で学校経営などの名家
④地元財界有力者本人かその「イエ」に属する(知名度+資金力)― 地元有力企業の経営者一族など

確かにその通りなんです。入って気が付いたのですが、日本の政界は、世襲だけではなく、企業や地元メディア、病院グループ等の一族の方がとても多く、「票」か「資金」(できればその両方)を持っていることが、当然の前提になっています。

すでに「票やお金を持っている」人を候補者にすることが、政党にとっては最もコストパフォーマンスが良く、そこには極めて合理的な理由があるわけですが、新たな人材を育てるという視点は欠如し、一般人の入っていく余地は極めて小さいということになります。

具体的な「世襲の力」とは?

では具体的に、こういった力が具体的にどのように作用するのでしょうか。

私は以前より、メディアや連載で、
・日本の政治の世界は、未だに、殺るか殺られるかの「戦国時代」で「武家社会」
・政治の親分・子分の絆は、武士の「御恩」と「奉公」
・地元の後援会は、まさに「家族」のような思いで、候補者
・議員を支える・長年世襲が続く地域においては、一族はいわば「藩主」で、代々継いでいくことが当然
と申し上げてきました。

(1)「家」「血統の正当性」が、大きな説得力を持つ。

第1回で言及した番組の中で、本郷和人東大教授が、「古代から、日本では、後を継ぐには『地位や能力』より『家』が重視され、鎌倉幕府でも、『将軍』だから家来が従うのではなく、『源氏』という『家』の人だから従った。世襲は、世の中が納得しやすく、そのため権力者側も継続を重視した。日本は島国であるため、外圧が少なく世襲の継続につながった。」と解説されていました。

まさにそれ、“納得感”です。以前の連載(「自民党の敵は自民党」熾烈でドロドロ、いじめも…利権渦巻く“公認争い” 選挙と政治のリアル<前編>、2021年10月27日公開)(「このハゲ~」騒動の裏に隠された真実とは 選挙と政治のリアル<後編>、2021年10月27日公開)(「それなりにお金払ってもらわないと」選挙で面食らった体験 「合法・違法なカネ」を解説、2021年12月17日公開)でも、選挙区の公認を巡る苛酷な経験から、日本の政界においては、『血統の正当性』は、人を納得させ従わせるために、最も効果を有することをご説明しました。苛烈な嫌がらせも受けずに済みますし、利権を求めて寄ってくる人や嵌めようとする人たちの様々なリスクからも、守られます。

権力欲の強い地元政界の方々も、「血統の正当性」には弱く、「〇〇先生のご子息なら仕方ない」と自分を納得させられる、自分のプライドが保たれる。なので、ゴタゴタが丸く収まる。「殺るか殺られるか」の世界の中で、実はこれは、とても重要なことです。

現状、客観的公正な評価基準が存在せず、血みどろの争いが延々と繰り広げられる政治の世界において、世襲は、「一番みんなが納得し、丸く収まる」形であり、我が国の歴史や政治システムに、最もなじみ、受け入れられてきた自然な形なのです。

もちろん、世襲だから安泰ということではなく、各地で同じ自民党の議員同士、議員と首長・地方議員などで、公認争いが繰り広げられ、有力な世襲の家系でも、争いに敗れはじかれることがあります。されどやはり、一般人と比べると、大きなアドバンテージであり守られていることは間違いありません。

(2)後援会はファミリー、運命共同体

長年、応援をしてきている地元後援会の人たちは、議員一族との“運命共同体”のようなものです。たとえ、血縁がなくとも、強い絆で結ばれた親族のようなもので、自分たちが一緒に歩み育ててきた議員、その子どもは、ともに成長を見守ってきた子ども、なのです。

特に、長年世襲が続く地域においては、一族はいわば「藩主」のようなもので、であれば、「若殿(若姫)」は小さい頃から、跡取りとして皆に育てられ、「殿の後は、若殿が継ぐのが当たり前」なのです。

(3)人脈と「親の恩」は、無形の財産

世襲の方は、政財界をはじめ、国内外に「あなたのお父さんには世話になった」という人がたくさんいることになります。この価値は極めて大きく、随所でプラスに働きます。

私は、党の仕事で、ある先輩議員と同期とで、引退した大物議員を訪問したときに、その方がひたすら、先輩議員の「お父さんとの思い出話」に花を咲かせ、仕事の話は(何も聞かずとも)最後に一言、「〇〇ちゃんが来てくれたんだから、もちろん、だいじょうぶ、了解!」とおっしゃるのを聞いて、なるほど、これはとてつもなく大きなパワーだなー、と思いました。

(4)一般人の候補者は、資金もノウハウもなく、すべて自力でやらなければならない。

自民党の公募で選ばれた候補者は、党に面倒を見てもらえると思ったら大間違いで、実は当選するまでは、基本「放置」されます。カネやヒトはもちろん、どこに行って何をすればよいか、といったこともすべて、自分で考えないといけない、という、落下傘の素人にとっては、まさに途方に暮れる状況です。(最初は本当にひとりぼっちだったので、例えば、てくてく何時間も歩いて、地図を頼りに一軒一軒党員の方の家を回る、というところからスタートしました。そしてポスターは、1500枚ほどすべて、自分でお願いに上がり、スタッフと一緒に壁やフェンスによじ上って、パネルを針金で括り付け、貼っていきました。)

今思えば、そもそもの制度として、一般人が入ってくることを想定していない、ということなのだと思います。

これについて、安藤優子氏は、自民党の選対本部関係者の「公募というと、結局選挙のせの字も知らないのに手を挙げて出てきて、選挙は全部自民党がやってくれると思っている、それが県連にとって一番困る。」との考えを紹介しています。

私は「全部自民党がやってくれる」とは全く思っていませんでしたが、たださすがに「完全に放置される」とも思っていませんでした。親身になってくださる地元の方に、「とても考えられない無謀なことだよ、悪いこと言わないから、やめておきなさい。」と言われましたが、今はその意味がよく分かります。日本は、候補者や議員は、兼職は認められず、そして、公務員や通常の企業は、基本復職はできませんので、まさに、一般人にとっては、人生を投げうっての挑戦になります。

公募に受かり、勤め先を辞めてから、とりあえず活動に必要な自前で用意するべき金額(※額はここでは書きませんが・・)を聞かされ、びっくり仰天のけぞりました。(もちろん、地元でお金を配るというような違法なことを一切しない、純粋な活動だけを行っていても、です。) 金融機関は、候補者や議員にはお金を貸してくれませんので、一般人の候補者は、親族友人知人からかき集めるのが通常だと思います。ちなみに、公募に応募した候補者は、書類審査から面接に進むまでの間に、親族の自宅の土地建物の所有権や抵当権の有無まで調べられると、後に言われました。

以前の連載(「それなりにお金払ってもらわないと」選挙で面食らった体験 「合法・違法なカネ」を解説、2021年12月17日公開)でも書きましたが、歳費や文通費等は議員個人の収入には全くならず、人件費や家賃をはじめとする事務所の運営や、政治活動の費用にすべて回していくので、資金繰りには本当に苦労します。したがって、元々の資金力の有無というのが、選挙に出るスタート時点はもちろん、その後の政治活動においても非常に大きく影響し、持たない者は、毎月、請求書を見ながら支払いの心配に頭を抱える、ということになります。先代からの莫大な政治資金を非課税で引き継げる世襲議員とは、そこは本当に雲泥の差です。

(続く)

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