5年に1度の共産党大会が開催され、その中で習近平氏は中華民族の偉大な復興を改めて掲げ、いつかは米国を追い抜く大国中国を目指す方針を示した。また、台湾問題にも言及し、台湾統一は必ず成し遂げるとし、そのためには武力行使も排除しない姿勢を改めて鮮明にした。これまでも習氏は武力行使の可能性をちらつかせてきたが、中国の軍事力がいっそう増強され、米中対立、中台関係が悪化する中、今回の発言はこれまでにも増してリアリティが溢れよう。超大国中国を目指す習氏の野望は3期目でますます拍車が掛かることだろう。
一方、3期目はこれまでの10年以上に難しくなる可能性がある。最大の課題は、「内からの脅威」だろう。実は共産党大会を目前にした10月13日、北京市北西部にある四通橋に、「ロックダウンではなく自由を、嘘ではなく尊厳を、文革ではなく改革を、PCR検査ではなく食糧を」「習体制は要らない選挙が欲しい、独裁者習近平を辞めさせろ」などと赤い文字で書かれた横断幕が掲げられる動画がネット上に拡散した。共産党大会直前で警備が厳重に敷かれる中、こういった抗議行動が明るみになるのは極めて異例であるが、これは横断幕を掲げた人のみではなく、多くの市民が同じような不満を共有している可能性が高い。これがネット上に明るみになった直後、中国当局はSNSアプリへのアクセスを制限した。
中国は長年高い経済成長率を維持してきたが、近年はそれに陰りが見え始めている。そもそも急成長を維持すること自体が難しいが、超大国中国の実現を目指す習氏にとって、経済成長率の鈍化は避けたいものだ。今回の共産党大会では今年の経済成長率が発表される予定の日に、急遽それがキャンセルとなった。共産党大会という最も忠誠心を高めたいタイミングに、国民の士気を下げるような知らせは都合が悪いと判断したようだ。そして、新型コロナ禍に入って以降、中国では何回もゼロコロナ政策が実施され、国民は外出できない、仕事に行けないなど日常生活での制限を余儀なくされ、国民の経済的不満は既に沸点に達している可能性が高い。上海や深センなどでの長期的ロックダウンでは、市民と警察が口論になったり衝突したりする場面も目撃されている。
習指導部が最も恐れるのは、米国でも台湾でもなく国民の不満や反発かも知れない。2013年10月、車両1台が天安門前の広場に突入・炎上し、5人が死亡、30人以上が負傷する事件があった。中国当局は、実行犯たちはウイグル系住民だとしたが、それ以降、当局はそれを口実に新疆ウイグル自治区でウイグル系住民に対する抑圧を強化している。それは今日、強制労働など人権問題として国際社会で大きく報道されている。
習指導部はウイグル系やチベット系による分離独立を巡る動きを強く警戒している。習指導部がアフガニスタンのタリバンと関係を維持する背景には、経済的利権だけでなく、アフガニスタンで未だに活動するウイグル系イスラム過激派を根絶することにある。また、ウイグルで独立を巡る動きが活発化することで、それが台湾に波及効果が出ることを恐れている。
習指導部と市民、分離独立勢力との戦いは今後も続くが、経済的、社会的不満がいっそう強まれば、そういった動きが自然に活発化するのはごく自然の流れだろう。今後、中国では少子高齢化が進み、経済成長率も鈍化するといわれ、経済的貧困に陥る若者たちも少なくない。習指導部の行方を左右するのは経済といっても過言ではない。対外的影響力も拡大したい中、3期目の習氏が最も恐れるのは「第2の天安門事件」なのかも知れない。経済の悪化が事件を生むリスクを今のうちから考えていることだろう。
※記事を一部修正しました(10月24日21時05分)