ダークパターンって何?入会は簡単なのに退会は困難、勝手にメルマガ登録…人の心や行動をあざむく手法を分析

松田 義人 松田 義人

 

「入会は簡単なのに退会は困難なサイト」「勝手にメルマガ登録」「カウントダウンに煽られ、急いで購入してしまう」……人の心理や行動をつき、意図的にだます手法。

ネットユーザーであれば誰でも体感したことがある、こういった手法を「ダークパターン(ディセブティブ・デザイン)」と呼称し紹介した興味深い本が刊行されました。『ザ・ダークパターン ユーザーの心や行動をあざむくデザイン』仲野佑希・著(翔泳社)という本です。

 

すでに欧米では忌避感が高まり、規制強化がすすむこういった手法ですが、本書では、その定義と実例、発信側・受け手側双方の心理や行動をくまなく紹介しています。主にUI(ユーザーインターフェイス=ユーザーをコンピュータの間で情報をやりとりする機器や装置)に関わる人向けに編まれた本で専門的な内容ですが、特に興味深いのはやはりユーザーを意図的にだます「ダークパターン」の種類。ここでは、本書からそれらを抜粋しご紹介します。

7つに大別できる、ユーザーを意図的にだますダークパターン

 

本書で紹介されている、ユーザーを意図的にだます「ダークパターン」は主に以下の7つになります

1 スニーキング(こっそり)

ユーザーにとって重要な情報を隠したり、偽装したり、公開を遅らせたりする行為のこと。勝手に商品をショッピングカートに追加していたり、知らぬ間に有料オプションが洗濯されていたり、ある商品を注文すると、別の商品が付属品としてついてきたりするダークパターン

2 アージェンシー(緊急性)

顧客となるユーザーの「決断」を先延ばしにさせず、過剰に切迫感を演出したり、行動を促すためのダークパターン。セール期限を知らせるカウントダウンタイマーなどが顕著な例ですが、実際にはソースコードによってタイマーを繰り返しループさせていたりすることもあり、そもそもの「セール期間」が存在しないこともある

3 ミスディレクション(誘導)

ユーザーの注意を惹きつけたり、そらしたりすることで、特定の選択へと誘導するもので、認知特性を逆手にとったもの。企業がユーザーに何かの選択を求める場合、「はい」「いいえ」といったシンプルな二択を提示するのが一般的だが、ミスディレクションにおける「羞恥心の植え付け」で、拒否の選択肢にのみ「いいえ、節約したいとは思いません」「いいえ、健康管理には興味ありません」といった、およそ誰もが選ばないものを提示し、本来目指す選択へと誘導させる。こういった手法が用いられるのは以下のような場合に多い。

・ユーザーが何もせずにサイトを去ろうとしたとき
・メールマガジンの購読を停止しようとしたとき
・サービス(サブスクリプション)を解約しようとしたとき
・特定の受け取りを拒否しようとしたとき
・ソフトウェアを削除しようとしたとき

4 ソーシャルプルーフ(社会的証明)

ユーザーが何かを決断するとき、「正しい行動を取りたい」という気持ちから、他者の行動を参考にすることがよくあるが、こういった心理を悪用したダークパターン。初めて訪れた街でレストランを探すとき、閑散としたレストランよりも、長蛇の列をなすレストランのほうが「きっと美味しいに違いない」と考えるのと同じで、社会的証明の原理をマーケティングに活動したものを指す。「お客様の声」「レビュー」「5つ星の評価」「サービスの受賞歴」「セキュリティ認証のバッジ」などがこれに当てはまる

5 スケアシティ(希少性)

手に入りにくいモノやサービスに、より高い価値を感じるユーザーの心理を逆手にとったもの。希少性のアピールによって、そのまま切迫感(緊急性)の創出につながり、ユーザーにすぐに行動を起こしてもらうためのもの

6 オブストラクション(妨害)

ダークパターンの中で近年特に問題視されているもの。解約が困難なサービスのことを指し、「入会は簡単にできるのに、退会が著しく難しい」のが特徴。悪質な定期購入やサブスクリプションに多く、近年、改訂特定商取引法でも「通信販売の契約の解除の妨害に当たる行為の禁止」が盛り込まれるなど、日本でも特に問題視されている

7 フォースドアクション(強制)

ユーザーに無許可で特定のアクションを実行したり、ユーザー本人が望んでいないタスクを強いるダークパターン。強制的な登録や、強制的な継続もこれにあたり、顕著なものは無料トライアルの「解約忘れ」で継続させるもの

ウェブビジネスを行う人、ユーザー双方にとっての必読の一冊

 

ユーザー側にとってみれば、これら7つのダークパターンの中身と、発信側の心理を知るだけでも知らぬまに起きている損害を抑えることができそうです。また、冒頭でも触れた通り、欧米ではすでに規制強化が進んでおり、日本でも今後さらに厳しい目を浴びることを考えれば、発信側もよく注意しておくべきものでもあります。どんな企業でも無自覚に使ってしまう可能性があるダークパターンですが、その一方でブランドや信頼を棄損してしまうリスクを秘めているからです。

専門的ではありますが、こういったダークパターンの実例を、細やかに紹介しているのが本書で、一般読者にとっても十分興味深く読むことができる良書だと思いました。最後に出版に至った経緯について、担当編集者に聞きました。

「著者の仲野佑稀さんには、他書(UXライティングの翻訳書)の監修をしていただいた際にダークパターンの話を聞き、本書の企画が立ち上がりました。企画を練っていく中で、技術的な側面というよりも、社会的な側面からアプローチしようということになりました。

本書で取り上げているダークパターンは、誰もが一度は目にしている、体験しているものばかりです。一読して『これ、経験ある』『あれがそうなのか』と気づいてもらえるようにするために、事例を見せる必要がありました。ただ、ダークパターンの説明には、実際の画面をそのまま使えないものが多かったので作図をして一般例としてみせなければならず、そこは一番苦労しました。

本書は、UIデザイナーだけに向けた本ではありません。むしろ、ウェブをビジネスに活用されている方であれば、誰もが読んでおいたほうが良い内容だと思っています。特に経営者の方は、今後ダークパターンの規制が強くなってくる前に、一読いただけば幸いです」(担当編集者)

『ザ・ダークパターン ユーザーの心や行動をあざむくデザイン』仲野佑稀・著、宮田宏美・監修(翔泳社)

https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798172460

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