ウクライナ侵攻から半年 対ロシア制裁に加わらない「非欧米世界」の存在感ますます大きく…進む世界の分断

治安 太郎 治安 太郎

ロシアがウクライナ侵攻してから半年が過ぎた。プーチン大統領はウクライナでロシア系住民が迫害されていることを侵攻の正統性として強調しているが、これを機にロシアへの圧力は一斉に強化された。米国を中心とする欧米諸国はロシアへの経済制裁(原油や天然ガスなどの輸入停止、ロシア高官の入国禁止など)を強化し、マクドナルドやスターバックスなど世界的企業はロシアから完全撤退した。政府による制裁より、企業の完全撤退や事業縮小という自主制裁の方が効果的との意見も多いが、これらによってロシア経済は大きな損失を被ることになった。

また、欧米諸国は軍事面でもウクライナへの支援を強化し、今日までロシア軍の攻勢を食い止めることに成功している。侵攻当初、プーチン大統領は数日程度で首都キーウを掌握できると計算していたが、プーチン大統領が描く侵攻計画は既にフィクションと化し、ロシア軍は一進一退の攻防を余儀なくされている。

戦況が長期化することでロシア兵の疲労や不満も強まり、攻撃も無計画、無差別的なものになり、軍事戦略に基づく攻撃から逸脱したテロの様相も呈している。また、ロシアが使用する高性能武器も一部の材料で調達先が欧米諸国となっており、経済制裁に直面することで軍事開発面でも大きな制限が出ているという。欧米とロシアという構図のみでみれば、ロシアは経済的にも軍事的にも大きなダメージを受ける形になったことは間違いない。

しかし、それを支える空間が拡大している。実は、ウクライナに侵攻したロシアに対して経済制裁を実施しているのは欧米や日本など40か国あまりに留まり、中国やインド、ASEANや中東、アフリカの殆どの国は独自のスタンスを維持している。

ロシアへの経済制裁によってロシア産エネルギーが値下がりすることで、中国はロシアとのエネルギー貿易を強化する傾向にある。また、ASEANや中東、アフリカには一帯一路によって中国から多額の経済支援を受ける国も多く、道義的には欧米に追随したくても、そうすれば経済支援を停止、減額されることを警戒している国も少なくない。今年秋にG20を開催するインドネシアは、同会議にプーチンを招待することを発表し、インドは安価なロシア産エネルギーの輸入は避けられないとし、ロシアと距離を置くよう求める欧米の要請を一蹴した。

こういった「非欧米世界」の拡大、自国の国益を第一に、国益が合致すればロシアとも実利的接近を試みる各国の姿はプーチンを強く後押ししている。これがこの半年でプーチンが発見した最大の収穫と言っていいだろう。

米韓による軍事演習が8月22日から始まったなか、韓国軍は23日、ロシアの軍用機2機が韓国の防空識別圏に進入したと明らかにした。ロシア側の意図は明らかになっていないが、米韓による軍事演習を威嚇する狙いがあった可能性が高い。ロシアによるウクライナ侵攻から半年が経過するなか、日米などの間ではロシアが極東地域で軍事的活動を活発化させる懸念を強めているが、韓国で親米的な政権が誕生したこともあり、今後はロシアと韓国との間でも安全保障上の緊張が高まる可能性がある。

ロシアによるウクライナ侵攻から半年経って明らかになったことは、世界の分断が一層進み、しかもそれが長期化する様相を呈していることだ。プーチン大統領は強硬な態度を崩しておらず、「非欧米世界」陣営は先鋭化することで、今後一層欧米に対して強気の態度で対抗してくることだろう。グローバル化したサプライチェーン網のなか、経済のデカップリング(切り離し)は非現実的だ。しかし、日本としてはウクライナ侵攻で一層進んだ分断社会のなかでどう経済を支えていくかを考えていく必要がある。

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