ロシアによるウクライナ侵攻から3カ月となる中、ここに来てロシアの劣勢があちらこちらで聞かれる。侵攻当初、多くの人はロシア優勢、ウクライナ劣勢を考え、首都キーウは数日以内にでもロシア軍によって掌握されるとの見方が強かった。しかし、昨年夏のタリバンの急速な首都奪還を多くの人が予想していなかったように、その見方が間違っていることが徐々に鮮明になっていった。
侵攻当初、プーチン大統領もその勢いでウクライナ東部だけでなく首都キーウを支配し、ゼレンスキー政権の崩壊と傀儡政権の樹立を思い描いていたはずだ。しかし、欧米各国からの莫大な軍事支援、数万人ともいわれる外国人義勇兵の存在もあり、ウクライナ軍はロシア軍に粘り強く抵抗し、首都掌握というプーチン大統領の目標は困難となり、ロシア軍は東部地域での一進一退の状況を余儀なくされるようになった。
そして、ロシア軍の劣勢は内部からも見られるようになっている。最近では、ロシア軍の上層部から末端兵士への指揮命令系統にヒビが生じ、上層部の指示が末端兵士に伝わらず、兵士の反発や士気低下も深刻になっている。兵士の中には戦場の最前線の劣悪な環境に堪忍袋の緒が切れ、地元の人々に水や食糧を求める者の姿がメディアでも報道された。
こういった思ったようにいかない戦況に、プーチン大統領は苛立ちと焦りを感じている。最近では、プーチン大統領と側近たちとの間に確執が生じ始め、ウクライナでの戦況情報がプーチン大統領に正確に伝わらない場合もあるという。一部メディアでは、ロシア国内でプーチン大統領へのクーデター計画が報道されるなど、ウクライナ侵攻が長期化すればするほどプーチン大統領自身の安全が脅かされる可能性も聞かれる。
一方、ロシアの劣勢は近隣諸国の対応からも現れている。たとえば、フィンランドとスウェーデンは大国ロシア(ソ連)の近隣国という自らの立場を考慮し、軍事的中立を長年堅持し、NATO北大西洋条約機構にも加盟してこなかった。しかし、ロシアがウクライナに侵攻したことで状況は一変し、フィンランドとスウェーデンでNATOへの加盟を求める市民の声は急速に高まっている。両国は5月15日、NATOへの加盟申請を正式に発表した。また、英国のジョンソン首相は5月11日、スウェーデンとフィンランドと新たな安全保障協定を結んだ。この安全保障協定は、どちらかの国が攻撃を受けた際にもう一方の国が軍事支援を行うというもので、対ロシアを意識した内容になっている。軍事技術や軍事情報の共有も強化される予定となっている。
これもプーチン大統領にとっては大きな誤算と言える。プーチン大統領は長年NATOの東方拡大に強い不信感と警戒心を抱き、今回のウクライナ侵攻もNATOに加盟しない近隣諸国をけん制する政治的思惑もあったはずだ。しかし、結果は全くの裏目に出て、けん制するどころかむしろさらなる東方拡大に繋がっている状況だ。
こういった多方面からの劣勢に、プーチン大統領がどう対応するかが懸念される。プーチン大統領は核使用の可能性もちらつかせており、劣勢になれば核など国際的非難を浴びやすい非人道的な手段に打って出るリスクは高まるだろう。これが今日最も懸念されるところだ。しかし、仮にそういった非人道的手段に出た場合、これまでのように中国やインドなどロシアの友好国もロシア非難を避けづらくなるだろう。
今後の動向はずばりプーチン大統領がどのような行動を取るかにかかっているが、現在の状況の長期化はますますロシア、プーチン大統領の立場を危うくしている。確率的に高くはないが、ロシア国内からのクーデターというシナリオも決して非現実的ではないのかも知れない。