日本酒をブレンド→樽で熟成、4本180万円 京都・伏見の酒蔵とサントリーの名ブレンダーが本気で作った古酒が話題

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 清酒「月の桂」の蔵元で、「増田德兵衞商店」(京都市伏見区)会長の増田德兵衞さん(67)や、サントリーウイスキー山崎蒸留所(大阪府島本町)で「響30年」など世界的に評価されるウイスキー作りを手がけてきたサントリーの名誉チーフブレンダー輿水精一さん(72)が、全国七つの蔵元の日本酒の古酒をブレンドし、ウイスキーの樽(たる)で寝かせる新たな熟成酒作りに挑んだ。増田さんは「熟成は自然が生み出した文化。古くから日本でも親しまれていた熟成酒の価値を世界に広めたい」と話す。

 ワインやウイスキーは年代物の古酒に付加価値がつくが、日本酒は新酒で飲むものというイメージが強い。日本では、明治期の酒税制度で蔵が造った酒は貯蔵せずにすぐに出荷せざるをえなくなり、古酒や熟成酒の文化が衰退したともいわれる。こうした中で3年前、月の桂をはじめ、「黒龍」(福井)、「出羽桜」(山形)、「東力士」(栃木)、「木戸泉」(千葉)、「南部美人」(岩手県)、「水芭蕉」(群馬県)の七つの蔵元が一般社団法人「刻SAKE(ときさけ)協会」を設立。熟成酒文化の復興や市場開拓を目指し、各蔵が貯蔵する古酒をブレンドした新商品の研究に取り組んだ。

 協会のメンバーは、蔵元ではない外部の知見を取り入れようと、半世紀にわたってウイスキーの原酒を配合してきた輿水さんに古酒のブレンドを依頼。さらに山崎ウイスキーの貯蔵用の木樽で熟成を加えられないかと考えた。サントリーウイスキーの最高責任者である3代目マスターブレンダーの鳥井信吾副会長に依頼したところ、樽の貸し出しに理解が得られ、学際的な実験が実現した。輿水さんは、年数や味、温度管理の状況も違う各蔵の古酒を常温と低温グループに分けてブレンドし、その上で、ウイスキー樽で熟成させる「後熟(こうじゅく)」を施した。

 輿水さんは「好奇心もあって引き受けたが、ウイスキーとアルコール度数も大きく違う日本酒をブレンドしてどうなるのか分からなかった。使える古酒の量も限られ、一発勝負。個性の強い樽を使えば酒が負けてしまうし、後熟に時間をかけすぎてもいけない。その見極めに苦労した」という。月の桂では30年ものの純米大吟醸に、ほかの2つの蔵元の古酒をブレンドし、180リットルの古いウイスキー樽で昨年末から3カ月間後熟させた。すると、色に変化は出なかったが、味が大きく変わった。「ブレンドした古酒の個性がおとなしくなり、渾然一体となった。香りもより複雑になり、口当たりにウイスキーも感じられる」といい、「『時間』が日本酒の新たな価値や魅力を引き出す可能性は大きい」と評価する。

 ブレンドや後熟を経て完成した共作の酒を、「刻(とき)の奏(かなで)」と名付け、4種4本で180万円、限定120セットを世界へ売り出した。高価だが、大量生産できないヴィンテージ品で、ワインやウイスキーに負けないレベルで日本の熟成文化をアピールしたいという思いもこもる。協会の代表理事の増田さんは「熟成や日本酒の付加価値を高めることが一番の目的。今回、サントリーさんの協力のおかげで酒文化の広がりが見えてきた。酒造会社や業者などでつくる長期熟成酒研究会もあり、幅広い人の参加を得ながら古酒や熟成酒の味や基準をアカデミックに探りたい」と語る。

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