日本から届ける難民支援…ファンドレイザーが果たす役割と、国際協力を仕事にするということ

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連日報道されるウクライナ情勢。800万人以上が安全を求めて国境を越え、推定1570万人がウクライナ国内で緊急の人道支援と保護を必要としています(2022年6月現在)。さらに、世界に目を向けると、気候変動、紛争や迫害によってある日突然故郷を追われる人たちがいます。避難生活は数十年におよぶこともあり、難民の多くは、シリア、ベネズエラ、アフガニスタン、南スーダン、ミャンマーから逃れています。

国連UNHCR協会は、国連の難民支援機関であるUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の活動を支える日本の公式支援窓口。各国政府の拠出金と民間の寄付によって運営されるUNHCRの活動ですが、より民間による寄付の幅を拡充するために発足。「資金調達活動(寄付活動)Fundraising」と「コミュニケーション活動 Communications」を通じ、広報ならびに難民支援の輪を広げる活動を行っています。

日々の街頭キャンペーンを通じて難民を守り・支える活動をされているファンドレイザーのお二人・米山さんと法貴さんに、難民問題への関心が高まる今だからこそ感じているやりがい、そして社会課題の解決を仕事にすることの可能性について聞きました。

【ファンドレイザーとは】
NPO(非営利団体)が事業に必要な資金を社会から集める手段を意味する「ファンドレイジング」。個人、企業・団体などを対象に、Face to Face(対面)の街頭キャンペーン、WEB、電話、DMといった様々な手法でアプローチします。今回は、街頭・商業施設・イベント会場などで対面で一人ひとりに声をかけて、難民の現状や支援の重要性を伝え、継続的な支援プログラム「国連難民サポーター」に参加くださる新規の支援を募る寄付活動を行っているファンドレイザーに話を伺いました。 

社会の課題を解決したい―。民間企業からの中途入職

―お二人とも中途での入職と伺っています。どのような経緯で国連UNHCR協会に入られたのでしょうか

(法貴)2019年に中途で入職しました。大学卒業後は不動産会社に就職し、3年ほど働いていました。実は大学時代から国際支援のボランティアに携わっていたこともあり、もともと国内外の社会問題の解決に関わりたいという想いをもっていました。そこで、新卒で入社した会社を辞めてキャリアチェンジを図りました。

退職後は知人の繋がりもあって、半年ほどイギリスで過ごしました。イギリスは国際支援においても先進的で、NGO発祥の国でもあります。そこでボランティア活動に参加するなどして知見を広げていました。

―国内外問わず様々な社会問題があるなかで、特に難民問題に関心を持たれたのはどんな背景があったのでしょうか

(法貴)イギリスでは難民との様々な接点がありました。一つはボランティア先でのコミュニティカフェ。どんな人でも参加して良いというカフェでしたが、その中には難民もたくさんいらしていました。また、英語の勉強の一環でよく見ていたBBCでも、難民に関するニュースも多かったんです。次第に関心を持つようになって、インターネットなどで情報収集していくと、難民一人ひとりのストーリーを目にし、どんな苦しみや困難に直面してきたのかを知り、深く関わっていきたいと思ったんです。

―米山さんはいかがでしょうか

(米山)2015年に大学を卒業し、食品の貿易会社に営業として勤務していました。その後、2019年に国連UNHCR協会に中途入職しています。

転職の理由は私も似ていて、大学の講義で国際協力のプログラムに参加をしたり、途上国における開発について学んでいました。どのプロジェクトも資金難で援助が頓挫している現状を知りました。

学生時代、国際協力に興味を持つ人はたくさんいましたが、支援や開発の現場(フィールド)で活動したいという人が多く、資金調達に関心を向ける人が少なかったこともあり、それなら自分が携わってみようと思ったんです。ただ、社会のことを理解したうえで進みたいと考えていましたので、まずは民間企業での経験を積もうと就職しました。そして4~5年ほど働き、資金調達する国連UNHCR協会の求人を見つけ中途入職したというのが経緯です。

―難民問題に関心を持たれたのはどんなきっかけがあったのでしょうか

(米山)難民問題に限らず、子どもがご飯を当たり前に食べられない状況など、そうした社会の問題を変えたいと思っていました。その上で、国連UNHCR協会の求人を見つけ、難民問題について詳細に調べていくにつれて、非常に深刻な状況に置かれている人々が多くいることに気づかされました。

難民問題にフォーカスをしていたというよりも、広く国際協力に関わりたいと思う中で、求人をきっかけに深く関心を持っていったという流れです。

―社会人経験を4~5年ほど経験されてからの転職とのことですが、このタイミングでの転職は何か意図があってのことなのでしょうか

(米山)深い意図があったわけではありませんが、役職が一つ上がり、部下を指導する立場になったタイミングでした。一人で仕事を遂行することができるようになり、チームをまとめる経験を積んだことで、次のステージに進もうと考えたんです。

―お二人とも民間企業での就業経験を積まれていますが、NPOで働くこととの違いは感じますか

(法貴)民間企業との大きな違いは、やはり利潤追求するか否かということだと思います。民間企業の最優先事項が利潤追求のみではないかもしれませんが、それでも仕事において強く意識しなければならないものだと思っています。一方で、NPOで働く場合にはその法人のミッションの実現に向けて意識を集中することができると思っています。国連UNHCR協会の場合、「難民支援」という目的を実現することに向き合うことができるということです。

ただし、民間企業であってもNPO法人であっても、仕事を通じて誰かの役に立つという点は同じです。前職の不動産会社ではお客様一人ひとりにお部屋を紹介していましたが、部屋はその人の人生や生活に密接に関わるものです。そのサポートを通じてお客様の役に立つことができていました。社会貢献性の高さという視点では、民間企業とNPOの違いを比較することは難しいと思いますね。

―今までの経験やスキルが生きると感じることはありますか

(米山)ファンドレイザーの仕事では、自ら積極的に街ゆく一人ひとりに声をかけ、難民支援を訴えかけます。色々な方とお話をする機会があるので、円滑なコミュニケーションは大事になりますね。特に、難民問題を深く知らない場合には、相手の反応やどんなことを考えて聞いていただいているのかをきちんと把握しなければいけません。

さらに、説明をするときには相手の感情に訴えかけたり、ロジカルに分かりやすく説明する必要があるので、提案する力も必要になっていきます。

その点では、対人関係の構築や、提案するといった営業職で培った経験が活かされています。カタチのあるモノ(有形商材)を扱っているわけではない分、相手と信頼関係が築けるように丁寧なコミュニケーションを心がけています。

また、一緒に活動するメンバーもしっかりとした意志をもって国連UNHCR協会で働いています。様々な業界・職種を経験し色々な価値観を持っていますが、一つの目的に向けて一体感をもって活動していますので、そうしたメンバーと連携をする上でも対人関係をうまく構築するスキルがあると活かすことができますね。

(法貴)確かにそうですね。商品を売る仕事ではなく、皆さんの善意をいただく仕事ですので、まずは自分自身を信頼してもらうことが大切です。そのためには、「いつ(今日)」「どこで(ここで)」「誰が(私が)」「何を」「なぜ」「どのように」をわかりやすく、簡潔に伝えないといけません。

場所、時間、タイミングがそれぞれ異なりますので「こうすれば必ずうまくいく」というものではなく、日々活動する中で、考え、創意工夫を積み重ねています。

必ずしも最初から高いスキルが必要というわけではありません。そもそも、ファンドレイザーの経験がある人はそう多くなく、ほとんどは未経験からはじめています。難民支援とは、国連UNHCR協会とは、といった基本的な知識を身につけられる座学の研修を用意しています。

また、座学研修の後は、街頭キャンペーンの中で、学びながら、失敗と成功を積み重ねていくOJTがはじまります。メソッドが全くないわけではありません。基本となる考え方や基礎を学び、一人ひとりの個性や表現力、コミュニケーションスタイルに合わせて、少しずつ自分ならではの活動スタイルを作りあげることができるとも言えますね。 

「遠い」援助の現場(フィールド)に日本から資金という形で支援を届けるやりがいと難しさ

―このお仕事ならではのやりがいや難しさはどんなところにあるのでしょうか

(法貴)一番のやりがいは、いただいた支援で誰かの命を救うことに繋がり、誰かの人生を変えることができていると実感できることです。「国連難民サポーター」にお届けしているニュースレターや活動報告書を通じて、私たちの活動がきちんと結果に結びついていることを知ると嬉しく思います。

もう一つは街頭でご支援いただく方から「あなたたちがいなかったら、こうして支援(寄付)を始めていなかった。本当にありがとう」とお声掛けいただくことも多く、そうした時は本当にその場所に立っていてよかったと感じますね。

この仕事の難しさについては、やりがいの裏返しでもありますが、まず難民支援の現場(フィールド)が目の前にあるわけではないので、寄付をいただいたとしても、それがどのような形で活用されていくのかリアルタイムで追うことができないことです。接客業などであれば、自分の仕事でお客様が笑顔になったり、すぐに結果が目で見て分かりますが、この仕事はそうではありません。絶対になくてはならない仕事ではありますが、いただいた支援で誰かの命を救うことができるという高い意識をもって仕事に臨むことは大事になりますね。

もう一つ挙げるとすれば、街頭でのキャンペーンですので、無視されてしまうこともあります。大切な活動だからこそ、声をかけても足を止めていただけなかったときには残念に思います。その分「ありがとう」というお言葉をいただけるときは、挫けずにやっていて良かったと感じる瞬間です。

また、国際協力や社会問題に取り組むような仕事では、どうしても社会の負の側面に目がいきがちになってしまうことがあります。そうなるとだんだんと気持ちが落ち込んでしまいますので、活動を通じて良くなっている部分や、これから良くしていこうと思うことに目を向けて、前向きに活動を続ける意識を持ち続けることが難しさでもあり、大切なことになると思います。

―米山さんはどのようにお感じになりますか

(米山)まずはやりがいについてです。民間企業であれNPOであれ、自分たちの商品やサービスの提供に社会的な価値を見出すものですが、私たちがやっていることは援助の現場(フィールド)に直結するという、非常に分かりやすい価値を提供していると思っています。そうした点は大きなやりがいだと思いますね。

また、先ほどと重複してしまいますが、同じ想いをもったメンバーが集まっています。これまでの経歴は様々ですが、一体感が強く、辛いことがあったとしても支え合いながら活動することができるというのも、やりがいの一つだと思います。

そして難しさについてです。この仕事をする上で国際情勢についての知識や情報を常にインプットしながらも、情報の取捨選択が必要です。なぜなら、街ゆく一人ひとりがどんなところに興味を持っているかは様々だからです。あまり詳細な情報をお伝えしても、一度で理解いただくことは難しいものです。

内容が難しく理解できないと思われてしまうと、せっかく足を止めていただけたのに、「そんなに難しいことだったらもういいや」と思われてしまいます。必ず伝えなければいけないことは説明しつつ、一方で専門的になりすぎないようにするバランス感覚を持つことは難しいですね。どうしても援助の現場(フィールド)の情報や最新の国際情勢などを知ると、それを伝えたいという想いが強くなってしまうものです。

足を止めてくださる方の様子を見ながら、その時々によって情報量を少しずつ変えるさじ加減が難しい点だと思います。

難民支援にインパクトを与えたコロナ禍とウクライナ情勢

―街ゆく方に理解いただくための工夫というお話もありましたが、コロナ禍や昨今のウクライナ情勢など、2019年に入職されてから様々な社会の変化がある中で、キャンペーン活動で反応が変わったといったことはありましたか

(米山)コロナの影響については、緊急事態宣言の期間中、国連UNHCR協会としてキャンペーン活動を自粛していたこともあり、新しく「国連難民サポーター」に参加くださる方を街頭で募ることができませんでしたし、寄付をやめる決断をされた方もいらっしゃいました。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が解除となると、徐々に落ち着きを取り戻してきたので、個人的にはそこまで大きな影響は感じませんでした。

対して、ウクライナ情勢が報道されるようになってからは、足を止めて話を聞いていただける方が増えましたね。ただ、ウクライナだけではなく、アフガニスタン、シリア、南スーダンでも人道危機は続いています。きっかけはウクライナ情勢であっても、世界全体に目を向けていただくようお願いしています。

(法貴)私は個人的に、コロナの影響を強く感じています。2020年の第一回目の緊急事態宣言が明けたときは特に支援が増え、非常に驚いた記憶があります。コロナ禍において、みんなが大変な状況の中で、自分だけ良ければいいのではなく、もっと大変な状況にある人のことも考えたいという声をいただくことが増えました。

例えば一律で給付された10万円を大変な思いをしている人のために、と寄付してくださった方もいましたし、実際に協会全体としても2020年は前年に比べて多額の資金を調達することができました。

ウクライナ情勢が報道されるようになってからは、米山さんの言う通り、より多くの方が難民問題への関心をもってくださるようになったと思います。身近な友人や家族からも避難民の報道を見聞きする機会が増えたと言っていましたし、キャンペーン活動でも立ち寄って支援してくださる方が非常に多くなりました。

ただ、軍事行動がはじまった頃と比べ、足を止めていただける方も少しずつ減ってきています。報道は続いていますが、少しずつ慣れてしまったり、ニュースとして消費されてしまっているように感じることもあり、そこは寂しさも感じますね。

社会課題は山積みで密接に絡みあうからこそ、解決に取り組む人が一人でも増えてほしい

―お二人のように国際協力や、社会的な課題を解決することをライフワークとしたいと考える20代の方もいらっしゃいます。仕事を通じて解決したい課題の見つけ方や、仕事として取り組む上でアドバイスなどがあれば教えていただけますか

(法貴)同じ20代として、社会課題の解決をライフワークにする、というと大げさかもしれませんが、二つポイントがあると思っています。一つはまず行動してみるということです。

国内外を問わず社会課題というのは本当に身の周りに溢れています。もし課題が一つもなかったら全員が幸せに暮らすことができているはずですよね。そして、何か課題解決に取り組みたいと思っているのであれば、それはもう既に色々な社会課題に気付き始めているということだと思います。

たくさんありすぎてどれに関わったらいいのか分からないという方もいれば、一つに絞り込んだけれどもどのように挑戦したらいいのか分からないという方もいると思います。まずはボランティアで良いので一歩踏み出してみることが大事だと思います。

一つ一つの課題は独立しているのではなく密接に結びついていて、一歩踏み出してみることでその課題が他のどんな課題と関係しているのかが見え、根本的な解決のためにまず何をやるべきかということも見えてくるようになると思います。

そしてもう一つ大切なことは、自分の好きな事や、これまでの経験から見出した強みを活かせることが何かということです。数ある社会課題の中で、自分が興味を持てることに加え強みが活かせるものであれば、きっとやりがいをもって関わることができるようになると思います。

(米山)社会課題は密接に絡み合っています。紛争や迫害は難民問題に、難民問題は貧困や教育が関わってきます。それは国内の社会課題にも同じことが言えます。民間企業とNPOで働くことの違いの話の中であったように、社会貢献性の高さで比較できないのは、どんな企業・団体であっても、そこで働く以上、何かしらの社会課題の解決に貢献していると考えています。特に最近はCSRやSDGsに積極的に取り組む企業が増えてきました。

その上で、自分が本当にやってみたいことに対して、どんなアプローチをすればそれを実現できるのか樹形図みたいに順序を考えていくと少しずつ具体的になっていくように思います。自分が解決したい課題に対して、意外とこんな仕事が関わっているんだ、と気づくことができるといった形です。

20代の時期は色々な失敗をしてもまだまだ許容される時期だと思っています。まずは動き出してみるという話もありましたが、インターネットで検索すれば様々な情報が瞬時に出てきます。調べてみるだけでもこれからの行動が変わっていくと思いますよ。例えば「国際貢献 仕事」と検索するだけで本当に色々な情報が出てきます。

―最後に、国連UNHCR協会のように社会課題の解決に直接アプローチするような仕事に就こうとする方に、メッセージをお願いします

(法貴)繰り返しになってしまいますが、社会には課題が山積みです。私は国際協力の中でもファンドレイザーとして資金調達という形の支援に取り組んでいますが、それだけやっていれば良いとは全く思っていません。

気候変動や子どもの貧困、絶滅の危機に瀕している動物の問題、水質汚染…と多種多様な問題を全て一人で解決することは絶対にできないので、一人でも多くの人が取り組めることから取り組んでいくことが本当に大切になります。だから、「社会のために何かをしたい」人たちを巻き込んで共感の輪を広げていきたいと思っています。

社会に貢献したいという気持ちをもって動くことができる人は仲間だと思っています。国連UNHCR協会はもちろんですが、そうした想いを持つ全ての人と一緒により良い社会となるように頑張っていければいいなと思います。

(米山)「社会のために、または、誰かのために何かをしたい」という強い気持ちを持てることが最も大切です。インターネットには無数の情報があって、そこから一歩踏み出してみると意外と自分が活躍できる分野がたくさんあることに気づくと思います。

実際に働いている人に話を聞いてみる、そうした仕事に応募してみるなど、やれることはたくさんあります。スキルや能力に自信がないからと諦めるのではなく、まずは一歩踏み出してみて欲しいですね。そうすればどんどん道が開けていくと思います。 

【特定非営利活動法人 国連UNHCR協会】
UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の活動を支える日本の公式支援窓口として、2000年10月に設立。各国の任意の拠出金だけではなく、幅広く民間からも支えていこうという世界的な機運の中で誕生し、ミッションとして「UNHCR公式支援団体として、日本社会と難民や最前線で援助活動に従事する人々をつなぎます。」「難民および難民支援の国連および関係機関に向ける日本社会からの物心両面の貢献を、格段に高めます。」を掲げている。「資金調達活動(寄付活動)Fundraising」と「コミュニケーション活動 Communications」を通じ、支援の輪を広げている。

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