人口当たりの医師数が少ない地域での勤務を「積極的に検討したい」とした外科医は5%程度ー。岡山大医学部(岡山市)の外科系3教室が同大病院や岡山県内外の関連病院で実施したアンケートで、こんな結果が出た。
医師少数区域への勤務にためらいがみられる一方、医師や診療科の偏在緩和が全国的な課題となる中で前向きに検討できる条件としては、都市部よりも高い給与水準、夜間や緊急時のバックアップ体制などが挙げられた。
アンケートは9~10月、外科医1027人に行い、323人が答えた(回答率31・5%)。7割に当たる225人は岡山市や倉敷市などの都市圏で勤務。年代は20~30代が34・4%、40~50代が39・3%、60代以上が25・7%を占めた。
「医師少数区域での勤務について」の問いは、「積極的に検討したい」が18人で5・6%。「良い条件があれば前向きに検討したい」の142人(44・0%)を含めても半数に満たなかった。一方「全く考えられない」44人(13・6%)、「どちらかといえば、あまり乗り気ではない」119人(36・8%)だった。
医師少数区域での勤務をためらう理由(複数回答)は、配偶者の就労や子どもの教育の「家族の生活」が190人(58・8%)で最多。「症例数が少なく専門技術の維持向上に不安」179人(55・4%)、「当直や待機の頻度が高く、代替人員がいない」163人(50・4%)、「業務内容や負担に見合った十分な給与待遇が得られない」57人(17・6%)ーなど。
勤務を前向きに検討できる条件(同)としては「都市部と比較して高い給与水準や手当の保証」が174人(53・9%)でトップ。この他「夜間、緊急時の紹介先や高次医療機関のバックアップ体制充実」(142人、44・0%)、「勤務時間や当直・待機の回数を制限、管理」(128人、39・6%)、「赴任期間が明確に定められ、その後のキャリアパスを保証」(124人、38・4%)ーなどと続いた。
岡山県内の医療施設で働く医師数は2022年、人口10万人当たり324・0人で全国平均(同262・1人)を上回り、「医師多数県」とされている。ただ五つの2次保健医療圏では高梁・新見、真庭、津山・英田の3医療圏で全国平均を下回り、高梁・新見と真庭は医師少数区域に分類される。
外科医が医師少数区域への勤務をためらっている実態が明らかになったアンケート結果。分析した岡山大呼吸器外科学の豊岡伸一教授は「人口減少が進む中で医師や診療科の偏在を完全に解消することは難しい」としつつも「社会や地域で偏在緩和を考えるきっかけや参考になれば」と話している。
ーアンケート結果をどう受け止めるか。
岡山県北部などの医療機関が常勤医をなかなか確保できない理由として、みんなが頭の中で何となくイメージしていたことがはっきりと表れた。医師の家族のケアを行ったり、専門技術向上へ研修や経験を積める仕組みを用意したりするといった勤務しやすい環境整備の参考になる。
ー医師や診療科の偏在の背景は。
偏在が深刻化したのは国が医師の臨床研修制度を導入した2004年以降。それまでは大半が免許取得後に大学の医局に入って地域の病院に派遣されていたが、研修制度は医師が自由に研修先を選べる形のため、医局に人材が集まらなくなり、派遣が困難となった。さらに24年から始まった医師の残業規制も人手不足に追い打ちをかけている。
ー県南部と北部の医療格差は大きくなる一方だ。
胸部外科領域で専門的な手術をしている医師数は、県北部に心臓血管外科医が5人、呼吸器外科医が1人いるのみ。食道外科医は不在だ。人口減少や外科医のなり手不足の中、この数を大幅に増やしていくことは非現実的と考えている。
ー地域医療の質を保っていくにはどうするべきか。
病院が得意な診療科や手術の難易度などで役割分担し、人材を有効活用しなければ医療の質の維持が難しくなっている。〝総合デパート主義〟ともいえる病院完結型医療から、地域の医療機関がそれぞれの役割を明確にして患者を支える地域完結型への転換が求められている。医師の偏在緩和と同時に高度医療機関の集約化が必要で、集約化に向けては患者が滞りなく医療にアクセスできるように搬送手段の確保や情報技術の活用を考えていかなければならない。