ロシアがウクライナに侵攻してから1カ月以上となるが、最近になってロシア軍による虐殺行為がウクライナ各地で明らかになった。ウクライナの首都キーウ近郊のブチャではロシア軍が撤収した後、多数の民間人とみられる遺体が見つかった。
普通に道を歩いていたところを撃たれて死亡した人、突然ロシア兵が家に忍び込み、家の中で殴られるなどして亡くなった人、両手を後ろに縛られてその後撃たれて死亡した人など、その行為は極めて悪質だ。犠牲者も男性だけでなく、女性や老人、子供など数千人に及ぶといい、まさに無差別行為でジェノサイトといって間違いないだろう。
そして、ブチャだけでなくキーウ近郊のボロディアンカ、東部の要衝マリウポリなどでもジェノサイトが発生した可能性が高く、国際社会のロシアへの非難は一層強まることになろう。これまでロシアと伝統的友好国だったインドも今回の件があってロシア離れの傾向を示し始めた。
一方、過去を振り返れば、こういった行為は決してロシアだけが行ってきたことではない。
今回の件では米国が最も強くロシアを非難しているが、その米国もアフガニスタン戦争やイラク戦争の際は、国際テロ組織アルカイダなどとの関係が少しでも疑われたイスラム教徒を長期に渡って尋問したり、不当に拘束したりしたことがあり、ひどい場合にはキューバのグアンタナモ基地に輸送して拷問を行っていた。不当拘束と虐殺を同じ土俵で語るべきではないかも知れないが、明らかになっていないだけで、おそらく米軍だって似たような行為をしていた可能性が高いだろう。
また、中国に至ってはもっと状況が酷い可能性がある。ひとつに新疆ウイグル自治区の人権侵害があり、中国当局によるウイグル民族の虐殺も横行しているとみられるが、そういったことはウクライナのように公になることはない。繰り返しになるが、軍兵士によるジェノサイトはロシアだけにいえることではないのだ。
では、戦争になるとなぜ略奪や虐殺が起きるのだろうか。これはそれぞれの戦闘当事国や戦争状況によって多様な背景があろうが、まずは兵士の士気低下が考えられる。
今回のウクライナ戦争でも、ロシア軍の侵攻速度が鈍り始めると、兵士がウクライナ市民から食糧をもらったり、数百人が脱走したことが明らかになった。兵士といっても当然ながら人間であり、現地の深刻な暑さや寒さ、不衛生な環境などは兵士の体力や気力を徐々に奪い、極度の空腹感や疲労感によって食糧の略奪などが横行することになる。
また、これと関連するが、戦争が泥沼化すると徐々に軍の指揮命令系統にヒビが生じ始め、司令官から末端兵士への命令・指示が思うようにいかなくなり、末端兵士が自らの判断で暴走することが考えられる。こういった状況は、アフリカなどもともと軍の能力が脆弱な国々では日常的に起こっているかもしれない。
おそらく、今後ロシア軍によるジェノサイトがさらに明らかになるだろう。当然ながら、それに関わった者たちは全て法で裁かれるべきだが、一方でなぜそういった行為をしたのかを解明することが大切だ。兵士の置かれた状況はどうだったのか、ロシア軍の指揮命令系統はどうだったのかなど、軍兵士側の状況も見ていく必要があろう。