何者かが赤十字の事務所に侵入? ウクライナの人道支援を中傷するネットのデマ「臓器売買のために子どもの情報収集」「期限切れ薬を配布」は真っ赤なウソ

伊藤 大介 伊藤 大介

ウクライナで人道支援に取り組む赤十字国際委員会(ICRC、本部スイス・ジュネーブ)に対するデマが広がっています。「ロシア、ウクライナ赤十字社による臓器売買疑惑を調査開始」といった偽情報や、「期限切れの薬を配っている」「武器使用に関するマニュアルを配付している」といった根拠のない情報が流れており、赤十字国際委員会駐日代表部は「とんでもない話」「明らかにデマ」などと声明を発表し、公式ツイッター(@ICRC_jp)でも「真っ赤なウソ」と否定しました。赤十字国際委員会駐日代表部(東京)に取材しました。

赤十字の信頼失墜狙う? 

赤十字国際委員会(ICRC)は1863年に設立された世界で最も古い国際人道支援組織。ジュネーブ諸条約および国際赤十字・赤新月運動の創設者でもあります。武力紛争地で苦しむ人々に寄り添い、人道支援を行っています。ロシアのウクライナ侵攻を受けて、赤十字国際委員会はウクライナにスタッフを派遣し、医療支援のほか、激戦地マリウポリでは国連とともに市民の待避に取り組んでいます。

一方、2月のウクライナ侵攻以降、赤十字の活動にまつわる偽情報が出回っているといいます。

ーー今回、ホームページやTwitterを通じて否定した三つのデマについて教えてください。

「いずれも赤十字国際委員会のウクライナでの活動に関するデマで、5月から出回っています。(1)期限切れの薬を配っている(2)臓器売買のために子どもたちを集めていた(3)武器使用マニュアルを配布している、というものです。最近、日本語でもデマが出回り始めたので、日本語でも注意喚起することにしました」

「(2)の臓器売買疑惑は、何者かが赤十字国際委員会のマウリポリ事務所に入り、撮影した動画が元になっています。撮影者は何らかのリストを持って事務所内を歩き、赤十字が臓器売買のために子どもたちの医療記録を大量に集めている、と示唆しています。かなり精密に作られた動画で、現地の言語や英語でデマが広がっています。そもそも赤十字はウクライナの子どもたちの医療記録を集めていません。臓器売買に関与することなどありえません」

「(1)の『期限切れの薬を配っている』も作り話です。全ての医療物資は、受け取る施設や機関によって個別にリスト化され、管理しやすくなっています。(3)の『武器使用マニュアルを配布している』と言われているマニュアルは、オンライン上で一般公開されているもので、地雷や不発弾などの危険物を無効化する赤十字のチームが、事故回避のために通常使っているものです」

「これらのデマは赤十字の信頼を失墜させる意図があるのだと思います。紛争下では人々の感情が揺さぶられ、デマが広がりやすくなります。活動への信頼性が保てないと、現地スタッフの安全が守れなくなり、支援活動に支障を来します」

ーーこれまでも、赤十字国際委員会の活動に対するデマが流れたことはあったのでしょうか?

「アフガニスタンやシリアなどで紛争や内戦で起こり、赤十字の救援活動が注目されると、デマが流されます。今回のウクライナ侵攻でも、赤十字のトラックから武器を持った兵隊が出てきたとか、赤十字のトラックに武器を積んでいたといった偽情報が出ています。挙げていくと切りがありません」

ーー今後もデマ情報を否定する声明を出すことはありますか?

「悪質なデマには対応していきます。否定しなければ、現地でまことしやかに広がっていく恐れもあります。現在は、日本で赤十字のデマを信じている人があまりいないと思いますが、放置しておくわけにはいきません」

◇  ◇

デマを否定する声明を出した赤十字国際委員会(ICRC)のジェイソン・ストラジューソ報道官は、以下のようにコメントしています。「ICRCはそもそも、全ての人が人道的な生活が送れるよう力を尽くす組織です。紛争地で活動することは確かに困難が伴いますが、そうした地域で人々の苦しみを和らげることこそが私たちの仕事で、それ以外の何ものでもありません。こうしたデマやニセの情報を目にしたとしても、多くの人が一笑に付すと私たちは信じています」

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