「最近の若者は海外に行こうとしないんですよ」
「お金がないからですよ」
官僚と民間人の感覚の違いがSNS上で大きな話題となっている。
きっかけになったのはマンガ家の森泉岳土さん(@moriizumii)の「5年くらい前かな、官僚の人とお話する機会があって『最近の若者は海外に行こうとしないんですよ』と嘆いていたので速攻で『お金がないからですよ』とご注進したのだけど、本当に驚いていた。『そうなんですか…?』って。」という投稿。
たしかに日本人の平均給与は昭和末期、平成から比べて減少。ほかにもインフレや発展途上国の経済成長などを考慮すれば、世界における日本人の経済的地位は確実に低下しているのだ。
豊かな環境にあるがゆえに官僚にはそれが実感としてして感じられなかったというこのエピソードに、SNSユーザー達からは
「いると思う…。自分も旦那も公務員、その親も公務員でよい住宅地に住んでる人が『なんで生活保護を受けるくらいお金がなくなるのかわからない』そうで…当然住んでた地域も良いので同級生も富裕層が多く、生活困窮者を見たことがないのだそうです。」
「車の若者離れも、興味が無いんじゃなくて買えないって事に、政治家は目を向けない」
「外務省のそこそこ上の官僚の人も、全ての職業にボーナスが出るものだと思い込んでいましたね。話が噛み合う訳がないですわ。」
「海外に行きたい若い人は多いと思います。観光ではなく、海外で働きたい若い人は多いのではないでしょうか?」
など数々の厳しいコメントが寄せられている。
森泉さんにお話をうかがってみた。
中将タカノリ(以下「中将」):官僚の方とはどのようなシチュエーションで会われていたのでしょうか?
森泉:マンガの取材先の海外で、友人の紹介で一緒に食事をしました。当時、その官僚の方は現地に赴任していました。
中将:官僚の方の感覚について、あらためてご感想をお聞かせください 。
森泉:知らないことが悪いことだとは思っていません。僕がお話したことを聞いてもらいましたので知っていただけましたし、大事なのはこれから何をするかではないでしょうか。
中将:これまでのSNSの反響へのご感想をお聞かせください
森泉:「日本は貧しくなっている」という感覚が多くの人に共有されているのだなと思いました。格差が解消され、若者に今より多くの機会や選択肢がもたらされることを望んでいます。
◇ ◇
官僚、政治家など国家の舵取りをする立場にある人が危機意識を持たなければ、日本はこの長い下り坂から脱出することはできないだろう。せめて森泉さんが接した官僚が認識を新たにして、自身の出来る範囲だけでも事態の改善に取り組んでくれていればいいのだが。
なお森泉さんは今年7月に待望の新刊「アスリープ」(青土社)を刊行。「かつて首都だった大きな都市に、最後に残ったのはひとりの女性だった」という気になる書き出しから始まる独特の情緒あふれる力作だ。ぜひ多くの方にチェックしていただきたいと思う。
森泉岳土(もりいずみ・たけひと)
1975年東京都生まれ。マンガ家。墨を使った独自の技法で数多くのマンガ、イラストレーションを発表している。著書に『爪のようなもの・最後のフェリー その他の短篇』(小学館)、『セリー』『報いは報い、罰は罰(上・下)』(以上、KADOKAWA)、文学作品のマンガ化に『村上春樹の「螢」・オーウェルの「一九八四年」』『カフカの「城」他三篇』(以上、河出書房新社)などがある。
Twitterアカウント:https://twitter.com/moriizumii
「アスリープ」
アスリープ(ASLEEP)=「眠って」。
かつて首都だった大きな都市に、最後に残ったのはひとりの女性だった――。
墨を用いた独創的な手法で高い評価を得るマンガ家・森泉岳土による描き下ろし新作。
紹介ページ:http://seidosha.co.jp/book/index.php?id=3575