小学生は“ご馳走”してもらえる「100円たこ焼き」のお店 「子どもも大人ものんびり過ごす場を」開店した数学教師の挑戦

ふじかわ 陽子 ふじかわ 陽子

高槻市立川西小学校のほど近く、いつも小学生の賑やかな声が聞こえてくる小さなお店があります。「100円たこ焼き」です。開店は6時間目が終わる15時半ごろから。たこ焼きが焼ける良い匂いが漂ってきたら、ランドセルを背負った小学生が店に集まり始めます。

4個100円という手軽な値段もあり、瞬く間に鉄板の上のたこ焼きは消えていきます。でも、小学生の手に小銭は握られていません。店に入るや否や、奥へ行きチケットを手に取っています。そのチケットを店主の川人佑太さん(34歳)に手渡すのです。さて、このチケットの正体は何なのでしょうか?

小学生にたこ焼きをご馳走できるチケット

小学生が手に取ったチケットは「たこ焼きチケット」と呼ばれるもので、1枚で100円分のたこ焼きが食べられるもの。これは保護者や常連客、そして川人さんの活動に賛同してくれる方が先にチケットを購入し、そのチケットを店で配布しています。つまり、「小学生にたこ焼きをご馳走したい」大人が先払いしている形です。

川人さんがこのシステムの着想を得たのは、とあるテレビ番組で紹介されていた奈良県のカレー屋さん。このお店では、お腹を空かせた子どもにカレーをご馳走できるチケットを置いているのだそう。

ただ川人さんは子どもの貧困問題に取り組むために、たこ焼きチケットを置いているのではないのだと言います。

昭和の時代には、どこにでもあった雑談スペース

川人さんが目指しているのは「雑談ができるスペース」。一昔前の昭和なら、どこにでもあった駄菓子屋が姿を消し、小学生が集まってお喋りができる場が失われていきました。いくら小学生が集まったとしても、客単価が100円程度でしたら生計を立てるのが困難だからでしょう。

しかし、小学生が集まる場所は町に「あったら良いな」と感じていました。学校でも塾でもなく、コンビニでもないコミュニティ。この川人さんの想いに賛同してくれる人が、インターネットを通じて小学生にたこ焼きをご馳走してくれているのです。

だから、実は売っているのはたこ焼きではないんです。商品は川人さん自身。もうアニメやマンガの中だけでしか見られなくなった、小学生がのんびり過ごす場を作りたいという想いにお金を払っています。

その想いは実現し、小学生から高校生までの子どもが思い思いの時間を過ごす場として「100円たこ焼き」は町に溶け込んでいます。たこ焼きを食べたあとは宿題をしたり、ボードゲームをしたり。お店の2階で秘密基地(?)を作る子もいるんですよ。

コロナ禍により24時間役割を演じることに…

たくさんの小学生たちにたじろがず、日々温かく見守る川人さんは、実は数学の先生。100円たこ焼きを開店してからも、通信制高校の非常勤講師を続けています。開店する以前はフルタイムの教諭でした。

大阪市立中学教諭から私立の通信制高校の教諭となり、充実した毎日を送っていたもののコロナ禍になり事態が一変します。全ての仕事がリモートになったのです。それに伴い、息苦しさを覚えるようになりました。

仕事は相変わらず楽しく家族仲も良いのですが、どうも調子が出ない。その原因が分からず、悶々としていました。

そんな時、幼い息子を連れて近所の公園へ行きます。そこでパパ友と久しぶりに会い、何気ない言葉を交わしました。公園を後にした時には、とても心が軽くなったのだそう。雑談が、「先生」や「お父さん」という役割から離れさせてくれたのでは?と川人さんは考えました。

そこで、「雑談」というものを町に物理的に置いたら、とても面白いことが起きるのではないかと思い立ったのです。「雑談」が集まる場として、たこ焼き屋を開店する決意を固めました。

町の「サグラダファミリア」に

思い立ったら即行動。川人さんは勤務先に働き方の変更を申し出、フルタイムから非常勤講師へ。勤務先からは驚かれたものの、快く受け入れてもらえました。高槻市に物件も見つけ、2021年4月100円たこ焼きは開店します。

ただ、コロナ禍でのオープンなので、声高に人を集めることはできません。コロナ禍が明けるまで「プレオープン」という形を取りました。なので、開店して1年以上した現在でも実のところプレオープンのまま。

「閉店する時が本格オープンの時かな」と川人さんは笑顔で言います。その時までサグラダファミリアのように成長できればとも。多くの人と関わり、子どもの成長を見守り、ただただここに店があり続けることが目標。

そのために様々なアプローチを行っておられます。コンテンツ配信サイト「note」でサポーターの募集を行っているのも、その一環です。noteを通じてお店に訪れたことがない人も、毎月たこ焼きを小学生にご馳走してくれているんですよ。

役割の垣根を超えて

経済的合理性を考えると、小学生相手の商売は儲かりません。しかし、経済的合理性ばかりを追い求める社会は息苦しくないでしょうか。会議のようにゴールの定まった議論だけでなく、ただお喋りするだけの「雑談」を目的とするコミュニティは今後もっと必要になるでしょう。

100円たこ焼きは小学生だけでなく、もちろん大人の来店も大歓迎!小学生に混じってのんびり過ごすも良し、テイクアウトで家族と楽しむも良し。2階はイベントスペースとして貸出もしていますので、お問い合わせください。

あなたも役割の垣根を越えて、一息つきませんか。

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【100円たこ焼き(高槻川西町1-14-14)】
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