北京冬季オリンピックが閉幕した翌日、プーチン大統領はウクライナ東部で親ロシア派武装集団が一方的に独立を宣言している二つの人民共和国(ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国)を独立国家として承認する大統領令に署名した。そして、その3日後、ついにロシアはウクライナへの侵攻に踏み切った。
プーチン大統領はウクライナについて、ロシアにとって単なる隣国ではない、われわれの歴史、文化、精神的空間は不可分だとの認識を示していた。
ウクライナへの侵攻から既に10日が過ぎるが、国内外のメディアからはさまざまな報道がなされている。「ロシア軍の侵攻は思ったように進んでいない」「ロシア軍兵士の士気が下がっている」「クレムリンの中でプーチン大統領に物を言える人がいない」など、ロシアについてネガティブに報じるものが多いが、プーチン大統領としても、一度侵攻に踏み切った以上は弱気の姿勢を見せられなくなっている。また、通常兵力を比較してもロシア軍の優勢は明らかであり、欧米諸国がウクライナ軍への軍事的支援を強化したとしても、双方の攻防は長期化する可能性がある。
一方、ロシアのウクライナ侵攻を連想する形で、日本国内でも「台湾有事」を懸念する動きが加速化している。確かに、侵攻前からバイデン政権はロシアに対して政治的圧力を掛けてきたが、結局はロシアの侵攻を食い止められず、欧米諸国の対応は経済制裁やウクライナへの軍事支援に留まっている。そういった対応を中国が自らの台湾侵攻に照らし合わせ、あらゆる戦略を練っている可能性は高い。近年、インド太平洋では英国やフランス、ドイツやオランダなども軍艦を派遣するなどプレゼンスを強化しており、対欧米という対立軸は中国にとってウクライナもインド太平洋も変わらない。
しかし、ウクライナ情勢が進むにつれ、中国にとっては誤算もあったように感じられる。上述のように、プーチン大統領がウクライナへの侵攻を進めてから、ロシアを非難する反戦デモが全世界に拡大するだけでなく、欧米がロシアを国際送金網SWIFTから除外するという重い制裁に踏み切り、国連総会では対ロシア非難決議が141か国の賛成多数で採択されるなど、ロシアの孤立は予想以上のスピードで進んでいる。
また、北京五輪開会式の際にプーチン大統領が訪中して習国家主席と会談し、対米で戦略的共闘を強化することを共有したものの、パラリンピックを前にロシアが侵攻したことで、中国にとっては泥を塗られた形だろう。プーチンリスクに直面した中国は、今後どこまでプーチンを信じたらいいのか熟慮しているかもしれない。
そして、ロシアの孤立化を目の当たりにした中国は、台湾への侵攻によって世界からの孤立を恐れていることだろう。習政権は発足当初から米国に対して新型大国関係(米中が衝突・対抗の回避し、互いの核心的利益と尊重し、ウィン・ウィンの協力を米中関係の基本にする関係)を受け入れるよう要求してきたが、それは今日ではもう不可能と判断し、米国との競争や対立は避けされないものと認識している。しかし、世界からの孤立は習政権も回避したいと考えており、ウクライナ情勢が進むにつれ、中国にとっては誤算が大きくなってきている。
対外的影響力を拡大したい中国からすると、当然ながらロシアの侵攻に支持を表明することはできない。しかし、中国にとっての最大の競争相手も米国であることから、ロシアへの風当たりが強まる中でも習政権はプーチン政権との戦略的共闘を進めていくことになる。しかし、これまでのような雰囲気でそれはできなくなっており、習政権としてもロシアとどこまで戦略的共闘をするかを模索せざるを得ない状況になっている。ロシアのウクライナ侵攻は、習政権にとって重い課題となりつつある。