ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領は20日までにCNNの取材に応じ、ロシアのプーチン大統領と交渉する用意があるとの意思を示す一方、交渉が失敗に終われば2国間の戦争は第3次世界大戦に発展する可能性があると警告した。ロシアのウクライナ侵攻から1カ月となるが、欧米諸国からの軍事支援もありウクライナ軍は善戦しており、思ったように状況が進まないプーチン大統領は苛立ちを強めているとみられる。それによって民間人への無差別攻撃も増え、国際社会のロシアへの警戒感は高まるばかりだ。ゼレンスキー大統領が主張するように第3次世界大戦はどれくらい現実味があるのだろうか。
世界大戦といっても厳格な基準があるわけではないが、およそ米国や欧州、ロシアや中国など世界の主要国が当事者となる世界規模での衝突と捉えることができよう。この定義に従えば、現在のウクライナ情勢に絡む当事国をみれば、ロシアとウクライナの衝突は世界大戦に発展する可能性は十分にあろう。
現時点で、ロシアとウクライナの衝突が第3次世界大戦に発展する可能性を見極めるうえで最大のポイントは、「プーチン大統領の判断」である。プーチン大統領は冷戦の敗者から大国ロシアの復活を強く掲げ、冷戦後東へ拡大するNATOに徐々に不満を強め、「ついにはウクライナか」という時点で同大統領の沸点に達したのである。要は、この時点でいつウクライナに再び侵攻するかという問題になったといえる。
そして、このタイミングでプーチン大統領がウクライナ侵攻という重大な決断を下した背景はいくつか考えられる。まず、「国家間の力のバランス」が大きく変化したことがあげられる。米国の力が相対的に低下するなか、中国の対外的な影響力が拡大しており、仮にウクライナに侵攻したとしても中国が存在感をふまえれば国際的な孤立は免れるというプーチン大統領なりの判断があったと考えられる。北京オリンピック直後というタイミングも、中国への一定の配慮が感じられる。また、米国が世界の警察官から引退を宣言したように、バイデン政権がアフガニスタンから米軍を撤退させたこともあり、プーチン大統領にはバイデンはウクライナに軍事的関与できないという確信があったことだろう。
以上のような判断がプーチン大統領の脳裏にあった可能性が高いが、国際的な非難の声が強まるなかでもプーチン大統領の強硬姿勢に変化は全く見られない。今後もロシア側が軍の撤退など歩み寄りの姿勢を示す可能性は低く、化学兵器や核の使用などをちらつかせることで欧米をけん制してくることだろう。そして、欧米の支援を受けるウクライナ軍によってロシア軍の劣勢がいっそう顕著になれば、化学兵器だけでなく核の限定使用などは現実的な選択肢となり得る。これまでのプーチン大統領の言動や判断から推測すれば、核の使用を命じる恐れは十分にあり、そうなれば物理的な被害が欧州に拡大するだろう。
米国や英国、フランスなど欧米諸国が経済制裁や軍事支援に留める背景にはそれがある。仮にウクライナにNATO部隊などを派遣してロシア軍と衝突することになれば、ロシア軍の劣勢が顕著になるにつれ、プーチン大統領はロシアの存亡がかかる事態だと判断し、核を使用するなど衝突が世界規模になることだろう。第1次世界大戦の引き金となったサラエボ事件のように、偶発的な衝突が世界規模での大戦に繋がる。既に欧米諸国は今のプーチン大統領は何をしでかすか分からないと警戒感を強めている。プーチン大統領が焦りや苛立ちを強めれば強めるほど第3次世界大戦は現実味を帯びてくることだろう。