感覚過敏の高校1年生が立ち上げたアパレルブランドが話題を集めています。
「感覚過敏や肌の敏感さで縫い目やタグに痛みや不快感のある方の悩みを解消したくてアパレルブランドを立ち上げました。縫い目が外側、タグなしの服です。オンラインストアで予約注文を開始しました。また7日より有楽町マルイで開発した服の展示をしています。必要とされる方に届いてほしいです」とツイートした加藤路瑛@感覚過敏研究所さん(@crystalroad2006)。
「縫い目は外側・タグなし」をコンセプトにしたファッションブランド「KANKAKU FACTORY」を設立し、着心地の良さを追求した服を製作している加藤さんにお話を伺いました。
例えば、パーカーのこだわりポイントを挙げていくと
・外側に出した縫い目を美しく、内側は凹凸の段差を少なく
・タグはなく、首に触れない場所にプリント
・フードにワイヤーを入れて頭に触れにくくする
・感覚の刺激に疲れた時はフードを被ってクールダウンできる
・フードの首元を持ち上げて簡易マスクにできる
・肩の位置を落とし、バッグを肩にかけても縫い目の存在を感じさせない仕様に
など細部にまで様々な工夫が施されています。
加藤さんは現在16歳。小さな頃から働くことに興味を持ち、12歳で株式会社クリスタルロード(東京都中央区)の取締役社長に就任。ご自身の課題でもある「感覚過敏」の課題解決事業や、子ども起業支援などを手がけ、「感覚過敏研究所」も立ち上げている加藤さんに聞きました。
「必要とするものがないなら自分でつくろうと思った」
――感覚過敏であることに気づいたのは?
小学校6年生の時、クリスマスプレゼントとして憧れの革ジャンを手に入れました。本物の革ジャンではなく、5000円くらいのものでしたが、袖を通した時に高揚感を感じました。でも、袖を通した時、いやもっと前から「服が痛い」という自覚がありました。
服を着ると生地が触れるところが痛い。小さい頃からこれが普通で、服とは痛いものでそれをみんな我慢して着ているものだと思っていました。
そんな中、中学1年生の時に「感覚過敏」という言葉に出会いました。感覚過敏とは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚などの諸感覚が過敏になっていて日常生活に困難さを抱えている状態のことをいいます。これは病気ではなく症状なので、診断されるというものではありません。
「うるさい場所が苦手」「食べられるものが少ない」「服や靴下が痛い」という不快な状態の理由がわかり、気持ちが軽くなったのを覚えています。
ーー「KANKAKU FACTORY」を設立された思いは?
小学生で革ジャンに憧れたように私はオシャレが好きでした。今もかっこいい服を着たいし、オシャレな服を買いたい欲望もあります。ただ、やっぱり服が痛いのです。ずっと着ているパーカーも、洗いこんでいくと綿素材の生地が硬くなり、毛羽立ちも増えます。その小さな毛羽立ちが何万本もある針のような感じで肌に刺さってきます。
それでもやっぱり諦めていた服選びの楽しさをもう一度経験したい…。そこで自分で服を作ることにしました。2020年夏、14歳の時です。
私は全ての感覚が過敏です。解決方法を探していますが、すぐにできる解決方法が「衣服の縫い目」でした。私自身が困っていたので必要とするものがないなら自分で作ろうと思いました。
ーーどんなブランドを目指していますか?
「KANKAKU FACTORY」というブランド名には、全ての人が自分の感覚を愛し、他人の感覚を尊重できる世界にしたい…という願いを込めています。困りごとを抱えている人のための可哀想な福祉ファッションではなく、「かわいい」「かっこいい」「おしゃれ」「着心地がいい」「ブランドコンセプトが好き」…そう言って愛されるブランドに成長していきたいです。
感覚過敏を超え、多くの人に愛され支持されることが、最終的には感覚過敏のことを知っていただき、今、感覚過敏で悩む人のためにつながると思っています。
服作りに関わる人もお客様もハッピーな状態に
――服作りに着手するにあたって、どんな動きを?
YouTubeやインスタを通して繊維商社の瀧定名古屋株式会社14課さんと繋がりました。その後、瀧定名古屋さんから「感覚過敏の人のための生地開発をしよう」とご提案いただき、信州大学繊維学部さんと産学共同研究としてスタートしました。
現在は生地の開発には至っていないのですが、触覚過敏の方の苦手な素材などの基礎研究をしており、3月に日本感性工学会で発表予定です。
――今回発表された商品の生地の素材は?
すべて綿100%です。秋冬向けパーカーはレーヨン、ナイロン、ポリウレタンで製作していましたが、製作時のクラウドファンディングの際に、「綿だったら買いたい」と言うリクエストがありました。大学と共同研究をする前の基礎データのアンケートの際にも「綿がいい」と言う回答は多くありました。
今回は、各商品ごとに綿の種類や加工を変え、快適さやシルエットにこだわっています。ただ、私自身は、綿が必ずしも良いとは思っておらず、固定観念にとらわれず、良い生地を探したいと思っています。
――ホームページでは生地サンプルも購入できるのですね。
もし買えるとしたら、手触りを見てから買いたいと思ったので、そのように対応しました。
――パーカーは24200円ですが、価格設定についてもお考えをお聞かせください。
価格に関しては一般的な価値観より高いなとは思いますが、服作りを始めて、改めて縫製やアパレル業界の問題点を理解することができました。縫製工場さんの縫製代を圧縮するようなことはせずに、服作りに関わる人もお客様もハッピーな状態になることを目指したいです。
縫製に関しては縫い目を外側にしながらも、美しく仕上げる技術力がある工場は少ないです。また、立ち上げたばかりのブランドですので小ロット生産のため、縫製代は高くなります。
また、縫製方法、工数も半端ないので、技術力があっても、やると言ってくださる工場さんも少ないかもしれません。生地も瀧定名古屋さんにご協力はいただいていますが、私が良いと思う生地は、金額も高いです。多くの人に買っていただけるようになると金額も下がると思いますので、そこも頑張りたいです。
ーーほかに、このブランドでやりたいことは?
販売価格が高くなる分、商品を長くご利用いただけるよう「服を捨てないネットワーク」も準備中です。「パイピングのお直し制度」(毛羽立ち・摩耗した場合、別の色で楽しみたい場合などに新しいパイピング加工でお直しする制度)や「てんばいにゃー制度」(着なくなった服をフリマサイトで販売する際、そのURLをご連絡いただければKANKAKU FACTORYのサイトでご紹介する制度)の仕組みを作りたいと考えています。
――今後、どのようなアイテムを手がけたいですか?
今、企画として進行しているのは、下着類です。私は男性なので、女性の悩みはなかなか共有できませんが、色々な意見を聞きながらブラジャーの企画も進んでいます。個人的には、ズボンやスーツを作りたいです。
また、足袋の老舗メーカー玉井商店さんと靴下の開発もしています。こちらも1年半かかっていますが、未だに完成していません。また、今後の展開としては、海外での販売を検討しています。
――現在、有楽町マルイで新作を展示中(〜3月13日)とのことですが、反応はいかがですか?
生地の滑らかさは好評をいただいております。縫い目や縫製のこだわりは、実物を見て納得いただけることも多いです。ネットだけでどう興味を持っていただき、こだわり部分の縫製やデザインを伝えられるかも課題だと感じました。
会場での販売は行っておらず、現物の展示やご案内のみで、購入希望の場合は予約注文となります。
「目に見えない感覚に困っている人がいる」それを知って欲しい
――現在、ツイートには2600件を超えるいいねがついており、関心の高さがうかがえます。
感覚は人それぞれ違うものですが、目に見えず、他人の感覚と比較することもできないため、周囲の人がどんな感覚の困りごとを抱えているかはわかりませんし、そもそも自分の感覚が他人と違うかもわかりません。
でも、誰にだって、苦手な音やニオイや味や肌触りはあるでしょう。感覚処理によって人よりも過敏で困りごとが多いのが感覚過敏であり、決して甘えや弱いからではありません。
「世の中には、目に見えない感覚に関して困っている人がいる」それだけを知っていただけるだけでもありがたいです。
今回、感覚過敏の悩みの1つでもある服の問題に取り組みました。感覚過敏の人にとって着心地がいい服というのは、誰にとっても気持ちがいい服だと思っています。赤ちゃんの服は縫い目が外側で生地にもこだわりがあります。赤ちゃんだけでなく、我々ももっと自分の肌を大事にしていいと思っています。たくさんの人に、縫い目が外側の服を着ていただき、着心地の良さを体験いただきたいです。
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現在、有楽町マルイで開催中の「インクルージョンフェス」は3月13日(日)まで。また、一部の商品は有楽町マルイ7階の「サスティナブルシンク」で3月28日(月)まで展示・試着が可能。「今後は全国で試着会のようなことをやっていきたいです」と加藤さん。研究を重ねている「KANKAKU FACTORY」の今後の展開にも注目です。
【加藤路瑛さん関連情報】
■KANKAKU FACTORYネットショップ https://kankakufactory.com/
■感覚過敏研究所 https://kabin.life/
■加藤路瑛さんTwitter https://twitter.com/crystalroad2006