270万円のアンプ、左右で300万円のスピーカー 令和の時代に、高級オーディオに復権の兆し?

小嶋 あきら 小嶋 あきら

 昭和の時代には、結構な割合のご家庭に「応接間」という部屋がありました。お客様が来たときにお通しして応接する部屋なので、あまり普段は使いません。家の中なのにちょっと気取った、なんとなく「よそ行きの服」のような部屋。そこにはたいていちょっとした額縁なんかが掛かっていて、ソファーとローテーブル、重たいガラスの灰皿、そして家具調の大きな「ステレオ」が鎮座していました。

 ステレオっていう呼び方はほんと、昭和ですよね。いわゆるオーディオ装置です。お客様が来ていきなり音楽を聴かせる、というシチュエーションは思い浮かばないのですが。ていうか、普通のご家庭にそういう「お客様」が来ること自体、ちょっと無さそうな気がするんですが。

 うちにあらたまった客なんて来ないよね、っていうところにたぶんみんな気がついて、滅びていったんですね、応接間って。そして住処を追われたステレオも、各個人の部屋に移っていく過程で、大きくて立派なものからだんだんとコンパクトでパーソナルなラジカセやミニコンポになっていって、いまではPCに取り込まれてしまった、という感じですね。iPodにとどめを刺された、とも言えるかもしれませんけど。

 だいたい1990年代までが日本のオーディオの黄金期で、その後は趣味としてのオーディオはコアなファン向けの高級機に走っていって、一般的には衰退したように見えます。しかし最近、そのオーディオが復活しつつあるようです。たとえば松下電器、いまのパナソニックがむかし展開していたテクニクスというブランドは、2010年頃に最後のレコードプレーヤーの生産中止で途絶えていたのですが、2014年に復活しました。また、一般的にはほぼ絶滅してしまったと思われているカセットテープも、最近ではメルカリやヤフオクなどで、レコーダーやデッキの売り買いが活発になっているようです。

 そんななか、11月12日に心斎橋で行われたオーディオセッション in OSAKA 2021というイベントに行ってみました。

圧倒的な物量で鳴らされる大音量の音楽

 会場は心斎橋のハートンホテル別館、ここの二階から五階までの各部屋に、様々なメーカーのブースがあります。

 まず一階の受付でチェックインします。その際に配られる記念の粗品なんですが、今年は入浴剤でした。この「オーディオ関係でもノベルティでも全くない」という辺り、メーカーさんとともに大阪の商店の皆様も集まって開催している感じがして実にいいですね。

 上から攻め降りてくることにして、とりあえずエレベーターで五階に上がります。最初に入ったSONYさんのブースでは、8kレーザープロジェクターのデモをしていました。100インチオーバーのスクリーンいっぱいにドットを投影したりするのですが、これが画面中央から端まで滲みやぼやけ、歪みが無く、明るさも均一なんですね。投影用のレンズが素晴らしい、ということなんだそうです。

 希望小売価格330万円、ちょっと欲しくなりました(買えません)。

 四階に降りると、Technicsさんのブースがありました。

 ハイエンドモデルのイヤホン(カナル式ヘッドホン)が置いてあって、若くて美しい担当のお姉さんが「どうぞ」と言うので試聴させていただきました。試聴用に用意されてた音源は、SONYのウォークマンの高級なやつでした。Technicsなのに。そういえばさっきのプロジェクター、再生してたのはPanasonicのプレーヤーでしたから、ここはあいこですね。それぞれ得意分野はある、ということでしょう。

 イヤホンはもちろん素晴らしい音です。12万円(税別)という価格でバランスドアーマチュア式ではなくダイナミック式、という辺りにTechnicsのポリシーがあるのかもしれません。

 その奥ではリファレンスシリーズというTechnicsで一番高いオーディオの実演をしていました。176万円のレコードプレーヤー、270万円のアンプ、左右で300万円のスピーカーで、アナログレコードを聴かせてくれます。

 この圧倒的な物量で鳴らされる大音量の音楽は、パワフルでクリアで素晴らしくいい音でした。つい聞き惚れて、気がつくと2時間近く経っていました。

マニアックかつユニークな装置まで

 このままでは根が生えてしまうということで、どんどん見て回ります。当然ながらどのメーカーも力が入っていて、素晴らしい音を聴かせていただきました。

 中でも印象に残ったのがAurorasoundさんというメーカーのブースでした。

 ある一定の年齢の人には馴染みが深い「真空管」という電子部品があります。トランジスタが発明される前のもので、現在ではもうほとんど作られていないのですが、アメリカの老舗がまた再生産に乗り出すなど、オーディオの世界ではいまも支持されています。このブースでは真空管アンプで素晴らしい音を出してました。

 そしてそこの社長さんから、新製品のパンフレットをいただきました。それは「RIAAコンバーター」というもので、何かというとこれは「CD等の音を一旦アナログプレーヤーの特性に変換して、アンプのアナログレコード入力に繋いで鳴らす」という、非常にマニアックかつユニークな装置でした。もはや何が何だかわからないですが、この自由さはもう素晴らしいとしか言い様がないなあと、いたく心を動かされました。

 

 今回、あの有名なJBLをはじめ、ほぼ全てのブースを見て回りました。それぞれ個性があるのだけど、聴くとまたどれも素晴らしいんです。

 原音を忠実に、というところを突き詰めるとみんな同じ音になる筈なのですが、現実はそんなにシンプルじゃない、そこがまた面白いんですね。

 オーディオの世界(沼かも?)の奥深さを垣間見た1日でした。

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