【漫画】「おかえり、お母さん」に12万人が涙 記憶は輝いていた子育て真っ盛りのころ タイトルに込めた3つの意味 

竹内 章 竹内 章

認知症の人はその人が一番輝いていたころ、一番幸せだった時代に回帰するといいます。状況を一切語らずとも、本人や家族の胸中をくみ取った漫画「おかえり、お母さん」がSNSで繰り返し読まれています。優しいタッチ、胸を衝かれる展開、温かいものがこみ上げる結末。大切な人に思うように会えないコロナ禍。読後、あなたは何を思うでしょうか。

夫、息子、娘と4人暮らしで、イラストやマンガを描いている主婦のちひろ(@chitti_design)さんがツイッターに投稿した漫画に心揺さぶられるユーザーが相次いでいます。 

「明日母親に電話しよう」「読んでいて無性に両親に会いたくなりました」「うちの母が、今ちょうどこんな感じでこれまでも家に帰れない事が3回ほど」「母親に「どなたですか…?」と言われる息子さんの気持ちが辛くてまた泣いた」「母を思い出した。いろいろ思い出した」「両親が認知症になっても優しい気持ちで接してあげたくなった」…12万を超えるいいねが付きました。離れて暮らす両親を思う人、介護の経験を思い出す人。自身と重ね合わせるようにこの漫画を読み進めた人は少なくないようです。

漫画の始まりは夕方の商店街を思わせる場面から。お母さんは育ち盛りのジュンとリエが待っていることを思い出し家路を急ぎます。そこに現れた見知らぬメガネの男性は、「ジュンの担任です」と告げます。並んで歩く二人の話題は反抗期真っ盛りのジュンのこと。愚痴をこぼすお母さんですが、「毎日お母様の自慢話をされてますよ」「本当にお母さまが自慢で大好きなんですね」という男性の言葉に、その横顔は輝きます。

話は進み、自宅そばで「家の前に誰か…」と怪訝に思うお母さんを、女性が「無事でよかった」と抱きしめます。背丈はお母さんよりも大きく、一転してお母さんはおばあちゃんとして描かれています。「リエ?泣いているの?」と戸惑った様子。そしてメガネを外した男性に向かって言います。「ジュンも来てたの?」

認知症の人がこの世界をどう見えるのかを描いた「認知症世界の歩き方」(ライツ社)によると、認知症の代表的な症状のひとつに記憶障害があります。ふと我に返ったとき、今、自分はどこにいるか、どこに向かっているのか、どこから来たのか、わからなくなってしまうというものです。過去も、現在も、未来も、すべての記憶が突然、すっぽりとなくなってしまうそうです。知識や情報を記憶できなくなったことで、「コンロに火をつけたことを忘れてしまう」「バスの降車ボタンが押せない」などの困りごとが生じるといいます。

ジュンとリエが大人になった今も、お母さんは歩いているうちに忙しくも充実していた、悩みながらも一生懸命子育てしていたあの頃に戻っていたのかもしれません。ラスト近く、お母さんは屈託ない笑顔で2人に「小さい頃もよく家の前で帰りを待ってくれたわよね」と当時を懐かしみます。「…おかえり、母さん」と泣き笑いのリエ、そしてジュンはお母さんの背中に優しく触れます。

 認知症という言葉を用いずとも、本人や周囲の胸中を優しく描いたちひろさんに聞きました。

 ―ご自身の体験が投影されているのでしょうか

「3年前に亡くなった祖父母が、タイミングは違うのですがどちらも認知症になりました。説明下手で長くなりそうなので具体的なお話を割愛しますが、そのときに感じた複雑な思いや経験したことを元に描きました」

―「子育てママの漫画かな」と読み始めた読者はこの展開に驚いたと思います

「時代が錯綜しているだけで「子育てママの漫画」で間違いはないです。認知症の方に見えている世界は本人にとってはただただリアルな世界なので、私にとって今一番イメージしやすいリアルな状況(育児中の働くママ)をストーリーの出だしに持ってきました。将来私が認知症になって、今生きている時代に戻ってきたらこんな感じかな…と想像しながら描きました」

―タイトルに込めた意味を教えてください

「3つの意味があります。主人公のお母さん、もうおばあちゃんなんですよね。もちろん子育ては終えて孫もいます。そんなおばあちゃんが、悩みがありながらも充実していた「お母さん」時代に戻るという意味での「おかえり、お母さん」、そしてこのおばあちゃんは子ども達にとってはいつまでもお母さんです。子育て時代に戻ってしまっているお母さんが、現代のおばあちゃんに戻ってくれたことへの「おかえり、お母さん」、そして最後に家族のいる家に帰り着くという意味での「おかえり、お母さん」です」

―漫画が広く読まれています

「驚いています。漫画を読んでくださりありがとうございます。みなさんの感想もとても嬉しいです。実家に帰れたら仏前に「バズったよ」と報告させていただきます」

 ちひろさんの漫画が読めるホームページはこちら→http://chittidesign.blog.jp

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