京都市が選定した「区民の誇りの木」で、下京区の高瀬川沿いにあったソメイヨシノが8月中旬に伐採された。倒木の危険があったためだが、近隣住民からは「何気ない風景に京都らしさがある。残せなかったのか」と惜しむ声も上がっている。
「区民の誇りの木」は、地域で親しまれている単独の樹木や並木を対象に、市が1999~2000年度に地域住民や専門家と選んだ。その後に追加された右京区京北地域も含め、これまでに901件が登録されており、下京区の高瀬川沿いでも3本のソメイヨシノが選定されていた。
市みどり政策推進室によると、このうち1本について、8月3日に市民から「枝が折れている」と連絡があった。現場で確認すると太い枝が裂けるように折れていたうえ、幹の内部も腐って空洞になっており、倒壊の危険性があったという。
市みどり政策推進室は「区民の皆さんにとっては愛着があると思うが、自然のことなので理解してもらいたい」と話す。樹木が枯れたり、所有者が管理できなくなったりして、伐採された「区民の誇りの木」はこれまでにも複数あるという。
だが、高瀬川一帯の景観にもたらされる変化は、今回の伐採にとどまらない。市の事業「高瀬川再生プロジェクト」の一環で本年度中にも護岸工事が始まり、川べりの樹木の約7割が撤去される見通しという。伐採後は新たに木を植えるが、高木については現在の5割程度になる見込みだ。市河川整備課は「低木も植え、緑の量は減らないようにと考えている」と説明する。
住民からは、思い入れのある風景が失われることを嘆く声も上がっている。近くに住む40代女性は、伐採されたソメイヨシノについて「地域のシンボルだった」と振り返る。高瀬川の両岸でソメイヨシノが満開になり、アーチのように見える光景が好きだったという。
現在は「区民の誇りの木 ソメイヨシノ」という看板と大きな切り株が残るのみ。女性は「みんなが世話して育ててきたのに。できれば撤去より治療をしてほしかった」と残念がり、「高瀬川の景観は希少な財産だと思う。歴史と時間が作り上げた自然の美しさをできるだけ残し、景観を損なわないように進めてほしい」と注文を付けた。