「京都市右京区にある君が代のもとになった『さざれ石』が忘れられ、荒れています」。京都新聞社の双方向型報道「読者に応える」のLINEに、「君が代」に歌われるさざれ石の名所が荒廃しているとの情報が寄せられた。現場を実際に訪れて調査した。
投稿主は、生涯学習施設「アスニー山科」(京都市山科区)の専門主事で、元小学校教諭の田井茂実さん=右京区。問題のさざれ石は、右京区鳴滝音戸山町の山にあるという。地元では「入亀山」や「さざれ石山」と呼ぶそうだ。
「君が代」のさざれ石のモデルとされる石は、全国各地にある。しかし、田井さんは自身の研究に基づき、「君が代」に歌われるさざれ石は鳴滝音戸山町の石だと説明する。江戸時代中期の京都ガイド本「都名所図会」にも掲載されるほどの名所だったという。
さざれ石のある山は現在、京都市が管理しており、入り口にある門が施錠されているので自由には入れない。今回は、京都市に「立入許可申請書」を提出し、田井さんの案内で現場に向かった。
さざれ石は、道路から離れたやぶの中にあるという。幼いころからよく訪れたという田井さんの背中を追い、獣道のような難路を進んでいく。しばらくすると視界が開け、ごつごつした岩のかたまりが見えた。
高さ50センチほどの岩のかたまりが五つほどある。田井さんによると、このさざれ石はチャートと呼ばれる岩石で、約2億年前の海底で放散虫の死骸などが積み重なってできたという。
1966年に撮影された写真と見比べた。写真ではさざれ石の周囲に植物はなく、全体像がはっきり分かるが、現在はマツやシキミなどが周囲に生い茂り、岩肌の一部を覆い隠している。
田井さんは「樹木の成長に伴い、岩の風化が進んでいるように思う。このままでは細かい石が凝固して岩になる『さざれ石が巌となる』のではなく、人目に付かないうちに『巌がさざれ石』になってしまうのでは」と懸念する。
この一帯は、どのように管理されているのか。京都市風致保全課に聞いた。
同課によると、一帯は古都保存法の歴史的風土特別保存地区に定められており、自然の状態を維持するために普段は門を閉じている。また、危険な樹木の撤去といったメンテナンスも随時行っているという。
風致保全課は「これまでにもさざれ石を見たいという申請があれば、立ち入りを許可してきた。今後も申請があれば適切に対応していく」としている。
現代では知る人ぞ知る名所になったさざれ石。投稿者の田井さんに改めて思いを聞くと「市として管理はしなければならないのは分かる。名所のさざれ石を多くの人に知ってもらうためにも(門の)近くに看板などがあってもいいのではないか」と提案する。