オニグルミ、アオスジアゲハ、カイツブリ…。大津市木の岡町の「木の岡ビオトープ」は、市街地近くにありながら多様な生物の生息地で知られる。子どもたちの自然学習にも利用されているが、この場所にはかつて「幽霊ビル」と呼ばれた廃虚があった。
ビルは大阪万博前の1968年、鹿児島県の業者がホテルとして着工した。高さ36メートル、地上11階建てで当時としては大規模な建物だったが、資金難で工事が中断した。コンクリートがむき出しのまま20年以上放置され、廃虚として知られる存在になった。近くの竹本勝さん(79)は「窓は割れ、壁には落書きがあり、不良のたまり場になっていた。地元の人も近寄らなかった」と振り返る。
ビルが一躍注目を集めたのが、92年のダイナマイトを使った爆破解体だ。解体工期短縮などを名目に、当時所有していた京都市の会社が実施を決め、英国の業者が作業を担当した。市街地でのビルの爆破解体は国内で初めてということもあり、テレビ中継も行われた。当時の報道によると、約4万人が見物したという。
跡地はその後、がれきを残して放置されていたが、2001年に一部を滋賀県が購入。長年、人の出入りがなかったため良好な自然環境が残っているとし、一帯約4ヘクタールを「木の岡ビオトープ」と名付けて管理し始めた。県が03年に実施した調査では、植物340種、昆虫類410種、鳥類60種が確認された。
06年には住民や行政、企業などが一緒になり、環境保全に向けた組織「おにぐるみの学校」を設立し、一般向けに自然観察会などを開いている。会長の小林圭介・県立大名誉教授は「琵琶湖岸の自然がここまで守られてきた場所は他にはなく、『幽霊ビル』があったおかげだ。環境を守りつつ、広く魅力を知ってもらう機会を作りたい」と話す。