世界的に社会問題化している食品ロス。食品ロスとは本来食べられるのに捨てられてしまう食品のことをいいます。農林水産省および環境省が公表した「食品ロス量(平成30年度推計値)」によると、日本では年間600万トンもの食品が廃棄されています。大切な資源の有効活用や環境負荷への配慮から食品ロスを減らすことは世界全体で取り組むべき大きな課題となっています。しかし食品ロス削減の無理な取り組みによって悩む人もいます。
今回取材受けてくれたのは小学2年生のお子さんがいるKさん(30代・女性)です。Kさんの子どものHちゃんはとても活発な女の子ですが、ある日を境に学校に行きたくないと言い出しました。その理由はクラス全体で掲げた目標にあったのです。
「給食の時間がつらい…」学校に行きたくない
毎日元気に学校に通っていたHちゃんがある日突然、学校に行きたくないと言い出しました。驚いたKさんはHちゃんに何があったのかを聞くと、Hちゃんは泣きながら「給食の時間がつらい…」と話してくれました。学校の授業で食品ロスについて話し合ったことをきっかけに「給食を残さない」というクラス目標が掲げられたのです。
クラス全員で目標を達成しようと盛り上がる一方、もともと少食で給食を残しがちだったHちゃんにとって、給食はつらい時間になっていきました。担任の先生は生徒の取り組みを応援するために、クラス全員が給食を残さず食べることができたらカレンダーにシールを貼ることにしたのです。しかしその取り組みがHちゃんにとっては、大きなプレッシャーとなってしまいました。
全員が同じだけの量を食べる必要があるのか?
それから数日、Hちゃんは学校を休みました。Kさんは担任の先生にHちゃんの悩みを相談しました。先生はHちゃんがもともと少食であることはわかっていたが、これを機にみなと同じ量を食べることができるきっかけになればと思ったそうです。
先生はHちゃんが少食であることを気にかけてくれていたのです。Kさんは先生に感謝しながらも、Hちゃんにとって全員と同じ量を食べることが苦痛であることや給食後、無理して食べたことでトイレで嘔吐してしまったことを伝えました。先生は嘔吐したことを知らなかったようです。驚いた先生は今後、クラス全体としてどのように取り組んでいくかを考えてみると話してくれました。
「食品ロス削減」に悩む小学生は他にもいた
「給食を残さず食べる」ことは大切なことです。しかし「みな同じ量を決まった時間で食べることは難しいのではないか」そんな疑問を抱いたKさんは、Hちゃんに「残してもいいから。大丈夫。最初から少ない量でお願いしようね」と伝え、学校に行くように促しました。また先生も個人にとって適切な量があることを改めて認識してくれ、クラス全体の目標は「自分にとってちょうどいい量を残さずに食べよう」に変更されました。目標が変更になったとき、Hちゃん以外の生徒数人からも「よかった~」という声があがったそうです。それからHちゃんは学校を休むことなく、元気に通学しています。そして毎日教室にあるカレンダーにはシールが貼られているそうです。
食品ロス削減は世界的にも取り組むべき大切な問題です。小学生が食品ロスについて学ぶことは重要なことでもあります。しかしクラス単位や大人数で一つの目標について取り組む場合、個人への配慮についても考えることが必要ではないでしょうか。いま、教育現場だけではなく社会全体として、個々への配慮を考えるべき時代になっているのではないしょうか。