みなさんは「感覚過敏」をご存知でしょうか。感覚過敏とは「聴覚・視覚・触覚・嗅覚・味覚」の五感の一部もしくは複数の刺激を過度に感じることで、苦痛や不快感が起こることをいいます。とくに発達障害のある方に感覚過敏は多く見られますが、感覚過敏があるからといってみんながみんな発達障害というわけではありません。
今回取材を受けてくれた愛さん(仮名・40代)には感覚過敏のお子さん(8歳)がいます。
――愛さんのお子さんはどのような症状がありますか?
大きな音に驚いて飛び上がったり、泣いてしまったり。ゴムなどで体が締め付けられたりすることも非常に嫌がります。ウールや麻、ポリエステルなどの混紡したチクチクする肌触りの洋服も皮膚が真っ赤になり、痒くて着ることができません。食感が苦手なものや、見た目が苦手なものも決して口にはしません。
――ゴムの締め付けが苦手とのことですが、学校ではマスクを着用していますか?
いいえ。今は登下校時も学校でもマスクは着用していません。最初は担任の先生からマスクが難しいなら「鼻は出してもいいですよ」とご配慮いただきました。しかし同級生からは、毎日「鼻までマスクをしないなら教室に来ないで」など傷つくことを言われ続け、精神的にも肉体的にも耐え難い苦痛を感じ、学校に行きたくない、しんどいと言うようになりました。そのため緊急事態宣言中は登校を自粛し家庭学習に切り替えました。
――今はマスクをしないことでいじめや差別はありませんか?
最初はマスクをしないことで、いじめが酷くなるのではないかと心配でしたが、たくさんの方々のご理解、ご協力により、マスクをしないことによる差別やいじめはなくなりました。トラブルを防ぐためにも『感覚過敏でマスクができません』という意思表示バッジをつけて生活をしています。
――感覚過敏でマスクができないことをどこかに相談をされましたか?
はい、クリニックや市の教育相談、同じ悩みをもつ親御さんの会の方などに相談をしました。最終的に教育委員会に事情を話したところ「学校は子どもたちにマスクを強要することはできませんし、無理してマスクをしなくてよいです。マスクができないことで差別やいじめが起きないように配慮します」と仰ってくださいました。そして、学年主任の先生から、子どもたちに分かりやすく感覚過敏についての説明があり、その後はマスクによる差別やいじめ、偏見がなくなりました。
感覚過敏はわがままなの?
愛さんも普段の生活の中で感覚過敏の子どもを「わがままだ」「親の甘やかしだ」「苦手なことを慣れさせなさい」と非難やアドバイスをされることがあるそうです。残念ながら感覚過敏の特性や症状を知らないと、ただのわがままだと受け止められてしまうこともあります。しかし、決して感覚過敏はわがままでも我慢が足りないわけでもありません。
なかには「強制的にでも慣れさせたほうがいい」という人もいますが、無理強いは厳禁です。トラウマになってしまい体調を崩してしまう危険がとても高いからです。また厚生労働省からも「障害特性により、マスク等の着用が困難な方に対する国民の皆様のご理解をお願いいたします」とのアナウンスが行われています。
コロナ禍で殺伐とした世の中になっていますが、こんな時代だからこそ、マスクをしていない人を見たときには非難するのではなく、「何か事情があるのかもしれない」と考えられる余裕が持てたらいいですね。お互いの個性や特性を認め合い、人に対して優しく思いやりをもって過ごせる社会になれば、さらにみんなが生きやすくなるのではないでしょうか。