和歌山モデルの陣頭指揮を執る仁坂知事に聞く 大阪と隣接しながら感染抑制できた理由

単独インタビュー<前編>

渡辺 陽 渡辺 陽

「人流抑制ありき」というのは間違っている

――近接する大阪府や兵庫県は医療崩壊しました。

仁坂知事 現実に大爆発していたら、原理原則通りにいかないこともあります。人間の能力は限られている。分かっていてもできないことがたくさんあります。保健所がもっと囲い込みに行けばいいと思うんだけど、これ以上働けないということになったら、それはもう働けない。漏れが出て、爆発してしまいます。そういう時は行動の抑制に訴えて止めてもらうしかありません。

――行動の抑制は最終的な判断だということでしょうか。

仁坂知事 いきなり人流を止めるというのは間違いです。感染症関係の専門家は学がない。感染症のことを知らない。感染症というか公衆衛生学と言ってもいいかもしれません。いま、テレビに出ている人は感染症の病理学的なことを半分くらいしか知らない。本当によく分かっている人はメディアには出てこない。

なんで学がないかと言うと、西洋の感染症学、公衆衛生学では、感染を防ぐためには人々の行動の変容しかないという。これ基本理論なんです。しかし、これは間違いです。

――最近は特に多くの人々が「まずは人流抑制」と訴えているように感じます。

仁坂知事 日本とヨーロッパを比べると、コロナの患者数と死亡者数が一桁違います。日本にはファクターXがあると言う人がいますが、そうではない。何が違うかというと、日本とアジア諸国には感染症法があるのです。感染症法があるから隔離ができますが、ヨーロッパではできない。そのため、ギリギリまで自由にさせておいて、最後にドッカーンとロックダウンする。ものすごい罰則がついていて、警察に留置場に放り込まれることもある。日本では、休業要請を無視しても過料が課せられる程度でしょう。しかし、罰則はありませんが感染症法がある。保健所が頑張って中抜きをすることができるので、感染者や死者が少なくなるんです。そういうことを全然分かっていない人がテレビで解説をしている。それが日本の悲劇です。

――各地の保健所はひっ迫していますが。

仁坂知事 和歌山県でも保健所や保健医療行政の人は、本当にがんばってくれています。ほとんど休みもないし、かわいそうだと思っています。

◆仁坂吉伸(にさか・よしのぶ)1950年10月2日生まれ。和歌山県和歌山市出身。東京大学経済学部を卒業後、1974年に通商産業省に入省、1999年経済企画庁長官官房企画課長、2002年同省製造産業局次長、2003年ブルネイ国大使。2006年和歌山県知事、現在4期目。家族は妻、一女。

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