和歌山モデルの陣頭指揮を執る仁坂知事に聞く 大阪と隣接しながら感染抑制できた理由

単独インタビュー<前編>

渡辺 陽 渡辺 陽

新型コロナ第4波が襲来しても感染者を少なく抑え込み、緊急事態宣言を発出しなかった和歌山県。新型コロナと闘うにあたり、県民にできるだけ行動の変容を求めず、精力的に積極的疫学調査に取り組んだそうです。なぜ積極的疫学調査を重視したのか、変異株にはどう対峙したのか。また、感染爆発、医療崩壊した大阪府と隣接するという立地で、なぜここまで抑制できたのか。まいどなニュースは、感染症対策本部長として陣頭指揮を執っている和歌山県・仁坂吉伸知事に単独インタビューしました。

積極的疫学調査を武器にコロナに立ち向かう

――和歌山県は近畿地方の他府県に比べ感染者が少ない。抑え込みに成功した要因は?

仁坂吉伸知事(以下、仁坂知事) 新型コロナのはしりの頃に、尾身さん(政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会会長)が『4日間、37度5分以上熱が出なければPCR検査をしなくてもいい』と言っていたでしょう。病理学を分かっていない。和歌山県は、『間違ったことを言うな、そんなことまったく聞きません』と言って、いきなりPCR検査をどんどんやりました。早期発見するためには、積極的疫学調査をどんどんやらなければならないのです。その仕掛けを県下中にビシっと作ってあります。

各都道府県には保健医療行政があります。和歌山県には9つの保健所がありますが、県庁の保険医療行政チームをヘッドクォーターに据えています。トップは野尻技監(野尻孝子福祉保健部技監)で、その下にビシっとスタッフがいます。保健所は中核都市である和歌山市の保健所と和歌山県の保健所があるのですが、それぞればらばらに動いていると全然うまくいきません。私たちは保健所の「統合ネットワーク」をバシッと作っているのです。

――統合ネットワークについて、もう少し詳しく教えてください。

仁坂知事 たとえば、有田市に住んでいるAさんが新型コロナ陽性になったとします。Aさんは和歌山市で仕事をしていたので、職場の仲間と一緒にお弁当を食べたり議論をしたりしていました。すると、和歌山市で濃厚接触者が出るので、和歌山市の保健所がすぐに対処します。さらに、Aさんが橋本市で食事をした場合は、橋本市の保健所が濃厚接触者の特定やPCR検査に乗り出します。そうした情報を全部上にぴゅっと吸い上げて、「お前、あれを調べに行け、これを調べに行け」と、ワーッとやらないと全然間尺に合わないんです。

保健医療行政チームと保健所の統合ネットワークが速やかに調査をして、陽性者の隔離、つまり入院調整をします。それらが全部動いていないとだめなんです。統合ネットワークがきちんとできていないと、有田市で発生したものを和歌山市で抑え込めない。ぼーっとしているうちに和歌山市でババババっと広がる。そうするとたくさんの人を入院させなければならず、医療現場が崩壊してしまいます。

――統合ネットワークとともに積極的疫学調査が功を奏したのでしょうか。

仁坂知事 コロナが流行ってくると、京都大学の西浦博教授のような方が、「国民の行動を抑制せよ」とすぐに言います。しかし、それは半分正しいけれど、半分間違っている。半分しか正しくないわけです。最終的には行動の変容が必要になるかもしれませんが、基本的にはコロナの拡大防止は積極的疫学調査を武器にして、感染症法を使って保健医療行政で立ち向かわなければなりません。保健医療行政は行政ですから、私が直接指揮命令できます。それに立ち向かって、県民に余計な迷惑をかけない。いい加減なことをしておいて、県民に要求ばかりするのは間違いです。

全員入院主義、コロナと闘うには想像力が不可欠

――第4波の変異株の時も積極的疫学調査を続けたのでしょうか。

仁坂知事 変異株の時は、爆発して大変でした。でも、頑張って耐えました。いままでと同じように統合ネットワークの活用と積極的疫学調査を続けたのです。あきらめて放棄しないでやり遂げました。第3波の時に東京都と神川県は放棄したのです。神奈川県は知事がわざわざ演説をして、積極的疫学調査の意義はなくなったと言った。そうしたら、感染者が大阪より増えてしまいました。いまは沖縄県が放棄しようとしています。これをやったら大爆発になるのです。

ただ、和歌山県も変異株にはちょっと負けてきました。コロナの感染者が1日に55人も出たんです。それでも全部調査しました。全部やったのですが、この調子では、次は100人になり、200人になる。それは立ち向かえない、病院もパンクする。だから、県民の皆さんには申し訳ないけれど、第4波の4月になってから、初めて不要不急の外出はやめてくれと、外出の自粛要請をしました。こんなことは言いたくないけれど、助けてもらわないと保健医療行政だけでは皆さんを助けられない。よほどのことがなければ普通の生活をしていいと言ってきたが、今回ばかりはちょっと難しい。それで協力してくれたので、ぐっと感染者が減ってきたのです。

――統合ネットワークのフル活用と積極的疫学調査の他には何をしましたか。

仁坂知事 合理的なことをやらないといけないので力の入れ方は少しずつ違いますが、和歌山県では、すべての医療福祉機関にコロナの検出装置(PCR検査キットや抗原検査キット)を配っています。ちょっと怪しいなと思ったら、すぐに検査してもらって、陽性者を見つけたらすぐに隔離、入院させます。全員入院させておかないと本当に危ないのです。

和歌山県では既に2000人ほどが発症していますが、そのすべての症例について観測、分類して知見を持っています。本当は国がやらないといけないのですが。コロナになると症状が出てから4~5日で肺炎を起こす人が結構います。安静にしていたら治る人が多いのですが、なかには酸素吸入が必要になる人がいて、その中でも急速に悪化して挿管が必要になる人もいます。ババババっと悪くなって、あっという間に息ができなくなって死んでしまう。入院させて、常に監視して、悪化したらそれにふさわしい処置をちゃんとしないといけない。それが全員入院の意義です。

どうしても全員入院できなくなった時に備えて、ホテルや自宅で療養する人にパルスオキシメーターをつけてもらえるよう在庫を持っています。デッドストックだけど(笑)起こり得る事態に対して常に想像力を働かせています。

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